映画「エイリアン」に登場する異星生物に賢者タイムを見た。
「エイリアン」はリドリー・スコット監督,H.R. ギーガーがクリーチャーデザインをした1979年公開の映画である (エイリアン (映画) - Wikipedia)。
この映画では,始まってすぐからかなりショッキングなシーンがある。難破した宇宙船を調べていると,そこにあった卵型の物体から飛び出した生命体が隊員の顔に張り付く。しばらくするとそれは取れて,隊員は元気を取り戻すが突然暴れ始め,エイリアンの幼体が胸を突き破って出てくるというものだ。
この一連の流れは,性交から出産に至るまでの流れと酷似している。内田樹氏が言及している通りである。
内田樹の考察によると、本作における「宇宙船のクルーがエイリアンの幼体からその子孫を体内にうえつけられ、それが体を破って外に出てくる」という流れは、ヨーロッパ全域で流布している「体内の蛇」と呼ばれる民間説話をなぞったものであるとし、それをフェミニズムに結びつけたことにオリジナリティがあるという。本作でのエイリアンは女性を妊娠させようとする男性の性欲の象徴であり、主人公のエレン・リプリーはそれに対抗するフェミニズム志向の女性の役割を果たしている。
私は,これがフェミニズムに結びついているかどうかには興味がない。それよりも,細かい作り込みに注目したい。
エイリアンの卵から飛び出した生命体がある。これが男性の性欲そのものを表しているというのが,この記事の主張である。これがリアルな描写なのだ。
卵の中にいるのは,フェイスハガーと呼ばれる顔に張り付く生命体である。宇宙服のヘルメットを突き破り,蜘蛛のような足で頭にがっちりとしがみつき,尻尾を隊員の首に巻きつける。そして隊員の口から管を挿入し,幼体を産みつける。この幼体が最終的にエイリアンに成長するのである。
さて,このフェイスハガーと男性との類似点について述べる。まずは形状から (エイリアン フェイスハガー)。ゴツゴツした触手は,男性の手の指のようである。尻尾の両脇についている袋状の部分がある。これは陰嚢{いんのう},俗に言う「玉袋」とそっくりである。2個あるところも同じだ。裏側は女性器を思わせる構造になっており,それは男性性欲の対象である。
次はその行動について見てみることにする。近づいてくる隊員を待ち構えているフェイスハガーは,性欲むき出しの男性である。そして,一旦抱きついたら,どうやってもはがすことができないくらいにガッチリとしがみついて,管を口から挿入する。欲望を満たしている最中は絶対に外れようとしない。無理にはがそうとすると,首に巻きつけた尻尾を締め上げて隊員を殺そうとさえするのだ (実はこれは脅しである。本当に隊員が死んでしまっては,自分が産みつける幼体も死んでしまうからである。しかし,その目的を知らない周りの隊員たちはこの脅しに屈するのである)。
そして,しばらくすると,あそこまで必死にしがみついていたのがウソのように,ポロリととれる。賢者タイムである (賢者タイム - アンサイクロペディア)。フェイスハガーは,外れると同時に死んでしまうという点では極端だが,実際,賢者タイムに突入した男は,性欲的には死んだも同然であるから,同じようなものである。
このように,フェイスハガーは,外見だけでなくその行動も男の性欲を忠実に再現したものになっている。性欲を満たし終えた男の行動までもが描写されている点には恐れいった。映画を観る人に「おぞましさ」を感じさせるためには,それが身近である必要がある。その点で,性欲は女性だけでなく男性にとってもおぞましい面を持っており,モチーフとして最適だったと言える。
エイリアンの美術に携わった H.R.ギーガーは,人間という生体と無機的な構造物との融合の中にエロスを見出すというテーマで作品を作り続けている。無機質な構造物が女性を犯してたり,そこから産み出されるであろう胎児が並んでいたりするのだ (H・R・ギーガーの作品ギャラリー【エイリアン】 - NAVER まとめ)。エイリアンの縦に長い頭部も,もともとは男根がモチーフで,後頭部に亀頭がついているデザインだった (エイリアンなアーティスト:ギーガーの画像ギャラリー(5/10) « WIRED.jp Archives Gallery)。異星人の難破した宇宙船は女性の開いた足を彷彿させ,さらに先は男根のような形状をしている (Aliens and Predators, Alien - Matte painting of derelict ship ...)。ギーガーはエロスを巧みに隠しながら味付けすることで,異星生物という恐怖にプラスして,身近に感じる恐怖をも加えたのである。
映画エイリアンに登場するフェイスハガーなどの生命体については,エイリアン (架空の生物) - Wikipedia が詳しい。
2014年9月27日追記:
H.R.ギーガーは2014年5月12日に亡くなりました (H・R・ギーガー - Wikipedia)。
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