国立西洋美術館 では,17世紀のフランス画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの展覧会が開かれている。日本ではあまり知られていないが,「フェルメールに闇を加えたようなタッチ」といえばイメージしやすいかも知れない。見逃せない展覧会である。
私がジョルジュ・ド・ラ・トゥールの作品に出会ったのは,ヨーロッパに一人旅に出かけたときのパリのルーブル美術館でだった。ルーブル美術館の一番奥の部屋でその作品を見つけ,ロウソクの火に照らされた闇の中の人物に引き寄せられ,見つめたまましばらく動くことができなかった。15年経った今でも鮮明に思い出せるほど印象的だった。
そのラ・トゥールの絵が日本で見られるのだから,喜んだのは言うまでもない。一昨日上野に出かけた一番の目的は花見ではなく,この展覧会だったのである。この展覧会は「ジョルジュ・ド・ラ・トゥール - 光と闇の世界」と題し,2005年3月8日(火)〜5月29日(日) の日程で開催されている。共催は読売新聞社である(** 読売新聞社 - ジョルジュ・ド・ラ・トゥール展 **)。
外は花見客で溢れていたが,美術館の中はそれほどでもない。人が少ないのはラ・トゥールの知名度が低いからなのかも知れないが,絵をじっくり見るのには好都合である。
ラ・トゥールの作品で印象的なのは蝋燭の光である。暗闇に蝋燭の炎があり,周りにいる人物を照らし出している。蝋燭があるのに,その炎は隠れていることが多いというのも印象的。手のひらや本や腕で隠れているのである。手のひらや本のページは,向こうの光が透けて見えている。
髪の毛の1本1本,老人の額の皺(しわ)の1本1本が丁寧に描かれている様は驚異的である。模作も多く展示されているが,真作との差は歴然としている。緻密さが違うのである。
ラ・トゥールは寡作な画家ではないが,戦乱に巻き込まれたために現存する作品は少ない。真作の数は40数点と言われている。その少ない作品は,フランス,ドイツ,ベルギー,アメリカ,イギリス,スペイン,日本など,世界各国に散らばってしまっている。その全てが見られる訳ではないが,真作18点と模作を含めた34点もの作品が見られる機会はまたとないと言えるだろう。
一般の料金は1,100円だが,国立西洋美術館のサイト内の割引券で1,000円になる。
追記:
蝋燭が印象的な画家といえば日本では高島野十郎を思い出すが,1988 年の目黒美術館での展覧会以来,まとまった展覧会の話を聞かない。高島野十郎の闇と静けさをたたえた作品はどこかジョルジュ・ド・ラ・トゥールに通じるものがある。幻妖ブックブログ: 高島野十郎の蝋燭画 によれば,評伝が出版されているとのこと。これは知らなかった。野十郎の作品をまた見てみたいものである。
2006年4月11日追記:
トラックバック頂いた 無精庵徒然草: 土屋輝雄・久世光彦・高島野十郎…によれば,没後30年高島野十郎展が2006年6月10日〜7月17日の会期で 三鷹市美術ギャラリー に巡回してくるそうです。
2006年6月12日追記:
高島野十郎展に行ってきました(nlog(n): 充実した内容の高島野十郎展)。
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