「良薬は口に苦し」という諺がある。薬は,その効き目のことだけを考えて作られている。だから味はいいはずがない。良薬に味を求めてはいけない。
仕事にはつらさや大変さが絶対に必要なのかという問いかけがある (FPN-仕事がつらいとか大変とかって絶対必要ですか?,元記事 仕事がつらいとか大変とかって絶対必要ですか? :愉快議)。私は,「絶対に必要」だとは思わないが,「必要なことの方が多い」と思っている。「仕事」をどう定義するかにもよるが,お金を稼ぐことであるなら,仕事はつらさや大変さが必要なことが多い。他人が大変だと思っていることを肩代わりしてお金に換えているからだ。ただし,他人の大変さをそのまま引き受ける必要はない。自分は簡単にできることかも知れないし,同じ大変さでも簡単だと「思える」かも知れない。他人の不足を補うことで,補った分がお金になるのだ。
以下では「良薬{りょうやく}は口に苦し{にがし}」について考える。上の話は「良薬」が「仕事」にあたる。仕事も苦いものだと私は思うのだ。ことわざとしての意味は若干違うのだけれども大目に見るとしよう。違うというのは,つまり良薬は「受動的」であるのに対し,仕事は「能動的」に行うことだからだ。
糸井重里氏が,「ほぼ日」で次のように書いているとある(FPN-仕事がつらいとか大変とかって絶対必要ですか?)。引用の引用になるのを避けたくて,引用元がどこにあるのかと思って探したが,「ほぼ日 (ほぼ日刊イトイ新聞)」内では見つけられなかった。
もし、この世の中に
『良薬は口に苦し』ということばがなかったら、
何かが大きくちがっていたかもしれませんよね。
このことばのせいで、たくさんの人たちが
「苦ければ苦いほど効くんじゃないか」と、
思いこんでいる人が多いんじゃないかなぁ。
体育系のクラブ活動なんかで、
「ウサギ跳び」だとか、さんざんやらされたのも、
痛い歯科治療をガマンされられたのも、
このことばのせいだったような気がします。
ぼくと、うちの犬は、
『ビオフェルミン』という薬が大好きなのですが、
それは「おいしいから」だったりもします。
水なしで口に入れて、コリコリと噛んで食べます。
ちっとも苦くないけれど、いい常備薬だと思ってます。
のどのための『ヴィックス』も大好きです。
これからは、以下のことばを覚えておきましょう。
『なにかの効果や成果は、総痛み量に比例しないぞ』。
私の感覚とはかなり違う。
私は,「良薬は口に苦し」ということばがなくても,何かが大きく違うことにはならなかったと思うね。薬というものは,効能だけを考えて作られているからだ。だから,美味しいはずはないのだ。薬を作る側に立って考えれば,美味しく作るのに手間をかけるくらいだったら,もっと効き目を上げるための手間をかけるはずだ。ただし,味が影響する場合は例外である。「のどのための『ヴィックス』」がそれだ。「ヴィックス」はのど飴なので,口の中に長く留めておかなければ効果が出ない。だから美味しい味をわざとつけてあるのだ。ビオフェルミンについては,美味しいと思う人もいるだろう。薬は,味のことは二の次で作られているので,苦いこともあれば,甘いこともあるからだ。だいたい,味の事を一番に考えているはずのレストランでも不味い料理を出すところが多いのだから,味を考えていない薬が美味しいというのはかなりレアケースである。
まとめると,私の「良薬は口に苦し」の解釈は次のようになる。
これからは,以下のことばを覚えておきましょう。
『良薬は味のことなんか考えて作られちゃいないぞ』。
ことわざの解釈は違うが,結論は同じになる。『なにかの効果や成果は、総痛み量に比例しないぞ』それはそうだと思う。糸井さんの主張は,結論は同意できるのだが,そこに至るまでは同意できないので困る。反論しにくいのだ。
さて,以下では「良薬は口に苦し」の例をあげる。上では「苦いこともあれば,甘いこともある」としたが,実は「苦いことの方が断然多い」と思うのだ。
子供の頃,夏にカレーを好んで食べるのか,まったく分からなかった。何もしないでいても暑いのに,カレーを食べてもっと暑くするのはなぜなのだろうかと。カキ氷の方がいいぜ,と思っていた。しかし,これは間違った認識だった。カレーを食べると発汗作用が促進されるので,最終的には体温を下げることができるのだ。
横軸が時間,縦軸が体感温度である。「暑い」という状態を脱出するために,カレーを食べる。一時的に「もっと暑い」状態になるが,その後涼しい状態に落ち着くことになる。体温を下げるだけなら,カキ氷でもよい。しかし,カキ氷ではお腹を満たすことはできない。カレーはよくできた食品なのだ。
「良薬は口に苦し」は,体の具合が悪くてつらいときに,薬は苦みで追い討ちをかけるようだが,その後は快方に向かう手助けとなるということである。「暑いときにカレー」は,暑さに追い討ちをかけるが,その後は暑さを和らげてくれる。
次の例は,乳児が寝るときの様子である。乳児は,遊んでいてそのまま大人しく寝ることは少ない。寝る直前に大泣きすることが多い。
世の中には,別のステージに移るために山を越えなければならないことが多い。子供は寝るための方法を知っている。わざと「泣く」という山を作ってから,乗り越えて寝る。グラフとしては,カレーの場合と同じになる。
「良薬は口に苦し」は孔子のことばである (482良薬は口に苦し)。
「良薬苦於口、而利於病、忠言逆於耳、而利於行(良薬は口に苦けれど病に利あり、忠言は耳に逆らえども行に利あり)」は、孔子の言葉。
カレーの話を含めて考えると,先の解釈も一部修正が必要となる。修正したものを次に示そう。
これからは,以下のことばを覚えておきましょう。
『良薬は味のことなんか考えて作られちゃいないけど,苦いことが多いぞ』。
これは解釈というより,孔子のことばそのものではないか。もちろん,苦くない薬もあるだろうが,そんなレアなケースを取り上げてどうするのだ。取り上げてもいいが,諺{ことわざ}になって語り継がれることはない。孔子は正しかったのである。
Posted by n at 2007-06-26 21:08 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
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