今週の火曜日,「おかあさんといっしょ」のスタジオ収録に参加するため,渋谷のNHK放送センターに行ってきた。そこは収録を成功させるためのノウハウが積み上げられた現場だった。
「おかあさんといっしょ」は,NHK教育テレビで放送されている幼児向け教育番組である (おかあさんといっしょ - Wikipedia)。この番組の前の時間帯に放送されている「いないいないばあ」は,劇団等に所属している子供が出演するものであるが,「おかあさんといっしょ」の子供たちは,一般の応募から抽選で選ばれている。これに当たったのである。
多くの方が収録体験記を書いている。まとめているサイト おかあさんといっしょへの道 や,検索して読むことができる (おかあさんといっしょ 収録 - Google 検索)。
スタジオ収録は1日に3回で,開始時刻は11時,14時,16時。局側からすれば,きついスケジュールである。テレビ番組の収録のことは何も分からない一般の親子を50組ずつ参加させているにも関わらず,タイムスケジュール通りに収録を進め,最後には満足して帰らせるというのは,冷静に考えればかなり難しい作業になる。沢山のノウハウの蓄積がそれを可能にしていた。
応募できるのは,3歳の誕生月から4歳の誕生月まで,毎月1回のみの,合計13回である。往復はがきに必要事項を記入して応募する (Q.「おかあさんといっしょ」のスタジオ収録の申し込み方法を教えてください。)。当選してもしなくても連絡があるというのは,それを待つ子供にとってはありがたいことである。募集する側の配慮が感じられる。子供にとっては「残念,また来月応募しよう。」と言うことで,1つの区切りをつけて次に進ませるというステップになるからだ。そうすれば,落選したとしても成長ができる。
当選した応募はがきには,本当に必要事項だけを記入しただけである。「はがきにひと工夫」などの色気はむしろ邪魔ではないかと考えたからだ。NHK にコネクションもないので,当たったのは純粋な抽選だと思われる。年齢3歳6か月での当選ということになった。3歳になったばかりだと,泣いてしまうなどのトラブルが多いことから当たる確率は低いようだ。ただし,名簿の管理はしているだろうと踏んで,3歳になった月から応募はしていた。
この年齢の子供は元気な反面,突然具合が悪くなることもある。風邪をひかないように,体調を崩さないようにするのに,かなり神経を使った。
服装は,NHK ということもあり,ネズミやクマなどの有名キャラクターが入っていないものを選ぶ。ところが,当日の午前中に公園で汚した! では何を着るかということで,3歳の女児は難しいお年頃ということもあり,すったもんだした。「本番着る服は、NHKに着いて着替えるべし!」まさにその通りである (ブログテーマ[おかあさんといっしょ収録]|こんなワタシが男の子の育児〜育児絵日記&キャラ弁〜)。
収録日は,今週の火曜日2009年3月24日だった。
16:15 に NHK 放送センターの西口に集合。入口を入ったところで,50組弱の親子が待機する。出席の確認と事前説明が行われる。担当の方が「1番から23番までの方は左,それ以降は右側に」と言っていたので,参加者は45名か46名というところだ。
参加者には,出席の確認の際にTシャツが配られる。「ぐ〜チョコランタン」のキャラクタの入ったTシャツだった。Tシャツをもらった人から順番に「トイレタイム」となる。これから1時間はトイレにいけないのだ。子供にトイレに行くかを聞いてみたところ,「大丈夫」とのことだったが,念のため連れて行くとしっかり出た。撮影中のトイレは戦線離脱を意味するので,子供の意見は聞かずに必ず行くのが吉である。
説明は廊下で行われる。ドラマに出演する役者であっても相部屋になるくらいなので,余分なスペースはないのだ。
ここで,うたのおにいさん (横山だいすけ),うたのおねえさん (三谷たくみ),たいそうのおにいさん (小林よしひさ),「ゴッチャ!」を踊るダンスのおねえさん (いとうまゆ) が登場する。廊下まで迎えに来てくれるのだ。ここで喜んだのは,子供たちよりもむしろおかあさん方である。おかあさんたちの興奮が瞬間的に最高潮に達した。そこには,目の輝いた子供たちと,少女にもどってしまったおかあさんたちがいた。参加者全員の心をわしづかみにした瞬間を目撃した。
デジタルカメラや携帯電話での撮影は一切禁止とのこと。「もし見つけた場合は,メモリ消去の上,子供といっしょに即退場」という,世にもおっかないお達しがあり,ちびりそうになった。2006年の時点では,最初に撮影ができたというレポートがあるので (おかあさんといっしょ収録レポート2007),一切ダメになったのは最近のことのようである。何かあったのだろうか。まことに残念である。
おにいさんとおねえさんに子供たちがついていく。親はその後ろから,さらにその後ろには泣いちゃった子供と親が続く。局内の狭い廊下を何度も曲がり,「CT-103スタジオ」に到着する。スタジオ内の配置は上のようになっている。
簡単なリハーサルが行われる。カメラリハーサルをしつつ,子供たちの緊張をほぐすのが目的である。おかあさんから離れられない子供も参加できる。その子のおかあさんは子供の横に並んで参加できるので,役得である。ただし,子供の泣きが激しいと本番に出演できないので,そのさじ加減が難しい。もっとも,子供は加減などできないので,どうなるかはその時次第。これに関しては次の表現が的確である。
★適度にグズると、ものすごい役得(天国)
★本気でグズると、強制退場(地獄)
ただし,「もしテレビに映らなくても叱らないであげて」とのこと。さすがは教育テレビ。これは親に対する教育であった。
「ぱわわぷたいそう」は途中までやったところで終了する。このときに「ゴッチャ!」に出演する1人が選ばれるようで,知らないうちに隣のスタジオに連れて行かれ,こっそりとリハーサルが行われる。
リハーサルでは,4月からの新キャラクターが登場した。これまで9年間続いた,スプー,アネム,ズズ,ジャコビのキャラクターによる「ぐ〜チョコランタン」に代わり,4月からは,ライゴー,スイリン,プゥートによる「モノランモノラン」となるからだ。キャラクターに関する情報が少ないため心配したが,子供たちには全く関係がなかった。すぐに適応して喜んでいる。心配するのは親だけで,それは実に無駄なことだった。
本番は一発取りである。基本的に撮りなおしはしない。撮りなおしにならないように,親たちには「声を出さない,席から離れない」などの厳重な注意がある。
「はい,本番いきます」で,最初に始まるのは「ゴッチャ!」である。子供たちの前のモニタには「ゴッチャ!」の画面が映し出されているが,どこで撮影されているのかは分からない。おかあさんたちには見える,奥のスタジオである。
放送される映像は,おかあさんたちの席の前にあるモニタに映し出される。おかあさんたちは,子供たちに手を振ったり,画面のどこに写るかをモニタで確認したり大忙しである。モニタには,歌のタイトルなども含めて映し出される。つまり,一発撮りと同時に編集もその場で行われているのだ。一発編集である。録画放送にはなるが,やり方は生放送と同じである。編集にかかるような無駄な時間は一切使わないという割り切りと,恐ろしいくらいの手際のよさが見えた。
最後に上から落ちてくる風船は,1人につき2個ずつもらうことができる。もらった風船は,子供たちがおかあさんたちのところへ自分で持っていく。おかあさんたちは,受け取った風船の空気を抜くように指示される。そこらじゅうで「プシュー,ブビビ,ブロロ」という,おならのようでおならじゃない音がするので笑ってしまう。風船をしぼませるのは,荷物にならないように,途中で割れないように,さらには自宅でまた膨らませて遊べるようにである。この工夫はうまい。結び目が外せるように上手く結んであるのだ。作り方は,風船を膨らませた後,結ぶときに,端の少し太くなっているゴムのところを半分だけ輪に通すようにする。この中途半端な結び方でも空気は抜けていかないのだ。
最後に子供たちは,おにいさんおねえさんたちと一緒に記念撮影をする。写真は3枚撮影してくれる。子供たちはどうしても動いてしまうからだ。この写真は有料で1枚1100円 (2枚目以降は順次安くなる)。後日振込み用紙で申し込むのだが,ここにもきめ細やかなサービスが感じられる。振込用紙には次の説明がある。
お子様の撮影ですので,私共では必ず2枚写真撮影をし,よりよい写真をお送りしております。従って,通信欄にお子様の洋服・髪型の特徴などを詳しくお書きください。
つまり,ひとりひとりについて写真をチェックして選ぶという手間をかけてくれるのである。これはありがたいことである。出演した子供の親は,必ず写真の申し込みをするだろう。スタッフは,1回あたり50人弱の子供の全員についてこの作業をするのだから,相当な労力となるに違いない。
写真撮影が終わると,スタジオを後にすることになるが,ここもよく考えられていた。おにいさんおねえさんとの別れは名残惜しいものであり,いつまでも一緒にいたいからだ。その気持ちは子供たちだけでなく親たちにとっても同じである。その思いを断ち切るために,まず,おかあさんたちだけがスタジオから出され廊下で待つように指示される。スタジオから出てくる子供たちをおかあさんたちが声をかけて呼び寄せるようにするのだ。子供はおかあさんに会えて安心する。おにいさんとおねえさんはスタジオの中にいて,ここで子供たちから上手く離れることになる。ドアがゆっくりと閉まるとき,その向こうでは,おにいさんとおねえさんが手を振ってくれている。子供たちは (親たちも!) 思い切り手を振って,名残惜しいけれども仕方なく,けれどもいい思い出だけを残してスタジオを後にするのである。
家に帰ると,疲れが興奮を上回ったためか,子供はすぐに寝てしまった。翌日は,ゴッチャ!ダンスの「くらげ」をしきりに踊っていた。最後の写真撮影が可笑しかったらしく,「メガネのおじさんがね,カニさんとかがいて,失敗しちゃったねぇ,ウフフ」と嬉しそう。そういえば,確か写真撮影のときに,上手くシャッターが切れないようで,カメラマンが「ごめんね,おじさん失敗しちゃった」と言っていた。カニさんというのは,カニのぬいぐるみを手に持っていたのだろう。あの失敗というのも子供をリラックスさせるための演出だったのだろうか。
「おかあさんといっしょ」の収録では,撮影を粛々と進めるドライなところと,それをカバーするサービス ―子供にとっては暖かく,親にとっては肌理{きめ}の細かい― があるのを感じた。
子供にとっても,親にとっても,非常に貴重な体験をさせてもらい,感謝している。放送は4月17日(金)になる。
2010年9月10日追記:
応募方法が変更になったようです 平成22年3月26日よりNHKネットクラブ を通じたパソコンまたは携帯電話からの「インターネット応募」になりました。
(みなさまの声にお応えします|特に多くいただくご質問)。
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