ロシア国立ボリショイサーカスの公演に行ってきた。昔ながらのスタイルのサーカスだったので,過去へ時間旅行したような気分になった。それはそれで嬉しかったが,変わっていく必要があるのかも知れないという気もした。
2009年8月30日(日),埼玉県所沢市にある所沢市民体育館で行われた「2009国立ボリショイサーカス所沢(埼玉)公演」に行ってきた (WELCOME TO BOLSHOI CIRCUS)。「国立」というのは,もちろん日本のではなく,ロシアのである。「ボリショイ」はロシア語で「大きい」の意味で,「ボリショイサーカス」はつまり「大サーカス」である。
公演は通常10:00, 13:30, 16:30 の1日3回行われている (B O L S H O I ・ C I R C U S 2009年 所沢(埼玉)公演)。できれば幼児の元気な時間に見せたいものだ。往復の時間を込みで考えると,午後はまずい。眠たくなってしまい,楽しむどころではなくなってしまう危険性があるからだ。帰りが夜になる夕方も好ましくない。ということで10:00からの公演を見に行くことにした。
9:00 前に到着すると,すでに人が沢山並んでいた。自由席の人は先着順に席を選ぶことができるからだ。招待券を指定券に引き換えるのも9:00からで,先着順である。
チケットはS席5500円,A席4500円,B席3500円だが,当日差額を払えばアップグレードできる。
入口を入ると,消毒用アルコールが用意されていた。新型インフルエンザ対策である。
ここから先は残念ながら写真撮影禁止。場内には恐い(日本人の)お兄さんがいて,座席に座っている子供の写真を撮っているお母さんに「撮影禁止ですよ」と注意していた。公演の30分以上も前で,しかも子供の写真なのにダメなのだ。もっとも,これを許してしまうと,最初は子供だけと思ってもタガが外れてしまい,公演中にフラッシュをたいてしまう可能性もある。フラッシュの光で演者が危険になってもいけない。残念だが仕方ないのか。
公演の始まる直前まで,舞台前方ではサーカスの仲間たちとの写真撮影回が行われていた。こちらは有料である。サーカスに出演する,ピエロ,犬,熊,馬などと一緒に写真が撮れるのである。そしてこちらはフラッシュあり。「ピカッ」とした後に写真を渡していた。インスタント写真とアナウンスしていたので,ポラロイドかも知れない。しかしポラロイドは生産中止である (ポラロイドから大切なお知らせ : 日本ポラロイド株式会社)。在庫なきあとはどうするのだろうか。そんな心配は余計なお世話である。
ロシア人らしきお兄さんとお姉さんが,手にパンフレットを掲げ「いかがですか」のごとく見せながら,ゆっくりと座席の前を歩いている。さすがに無料ということはないだろうと思っていると,おねえさん方は笑顔で無口だったが,場内アナウンスでは一部1000円とのこと。
そういえば,価格設定が気になった。パンフレット1000円,インスタント写真1000円,会場を盛り上げるためのLEDピカピカイルミネーションも1000円だった。大雑把である。会場内で食べていいポップコーンは1000円ではなく,塩味300円,キャラメル味400円だった。
演目は,犬,猫,熊のサーカス,空中アクロバット,空中ブランコ,棒上バランス,ボールジャグラー,馬上のアクロバットなどである。舞台は円形になっていて,動物のサーカスは舞台を大回りに回りながら見せるようになっていた。
空中ブランコは,15分の中休みの後に行われた。休憩時間にネットの準備をするのである。空中ブランコの演目が終わると,ネットもすぐに撤収された。時間つなぎはピエロの役目である。演目と演目のあいだに妙な間が空かないようにピエロが出てきたり,準備にかかる時間短縮のために人→動物→人→動物の順になっていたりした。観客を飽きさせない効果もあるのだろう。
馬上のアクロバットは素晴らしかった。馬に飛び乗ったり後ろを向いたりくぐったり。横の席は舞台に近いので,その大迫力を十二分に堪能できた。今回のボリショイサーカスは,「馬グループ」と「虎グループ」の2つがあり,所沢は「馬グループ」だったのである (B O L S H O I C I R C U S ボリショイちゃんねる)。
座席は「北席」で舞台を真横からみる位置だった。円形の舞台なので基本的にはどこから見てもいいようになっているのだが,方向があるものに関しては若干残念であった。例えば猫のサーカスは平均台やロープを行ったり来たりするのだが,平均台は舞台正面用に設置されているので「棒状」に見えるのだが,横から見ると「点」にしか見えないのだ。100 m 走を見るのにゴール地点から見ているのと同じである。大人は何をやっているのかが想像できるが,子供には難しかったようである。空中ブランコもネットの真下だったので,大人としては普段は見られない視点として面白かったが,子供にはあまり「スゴサ」が伝わらなかったようだった。とは言っても,ロープで吊り下げられてクルクル回ったり,棒の上で空中高くジャンプしたりするのは迫力があり,とても印象的だったようでとてもよかった。
アクロバットには失敗がつきものである。プロでも失敗することがあるのだ。今回の公演では,ボールジャグラーが失敗していた。ボールが1個手から離れて転がって行ってしまったのだ。そこでジャグラーはどうしたのか? 注目して見ていると,他のボールで演技をしながら転がっていくボールを見続け,転がるのが止まったところで腰から予備のボールを取り出して次の演技に入った。転がり始めたときは,それが失敗だとは分からなかった。ジャグラーがそのボールを見ていたからだ。面白いフォローの方法である。無視するのではなく,行方を見守ることで責任をとっていたのだ。そのボールはそれからどうなったかというと,最終の演技が終わるまで放置されていた。
空中ブランコでも失敗があった。最初にいきなり相手をつかみ損ねて落ちてしまった。下にはネットがあるからもちろん大丈夫。梯子を登って元に戻って演技を続けた。一番最後でも落ちてしまった。戻るかと思ったが,そのまま他の人も降りてきてしまい,空中ブランコの演技が終了した。戻らなかったのは,時間の制約の問題もあったのかも知れない。
馬上アクロバットでも失敗があった。走っている馬に乗りながら,腹側を回って反対側に行くという演技が上手くいかなかったのだ。手綱がほどけてしまったようで,これはもう一度やり直し。そして成功した。
失敗に関しては,見守るフォロー,やり直さないもの,やり直してフォロー,の3つのパターンがあった。失敗しないのがプロだが,失敗をうまくフォローするのもプロである。
今回の公演を冷静に振り返ってみると,少しばかり前時代的であるような気がした。サーカスというものが昔ながらのものであるからスタイルが古いのは当たり前ではある。古いというか変わっていないからだ。スタイルとしては,1つ1つの曲芸を見せるというもので,単品の連続なのだ。全体を通したストーリーはない。どこを切り取っても見どころはあるが,それ以上でもそれ以下でもない。薄くでもいいので,全体に流れる物語性のようなものを付け加えたら,別の楽しみ方もできるようになるのではないかと思うのだ。
2005年の所沢公演では,生オーケストラがついていたそうだ (ボリショイサーカス 所沢公演:毎日がレビュー)。今回の音楽は全て録音ものだった。もしかすると縮小傾向にあるのかも知れない。ロシア国立だからサーカス自体はつぶれないかも知れないが,縮小されたら,余った人たちは何をして稼ぐのだろうかと,また余計な心配をしてしまった。
Posted by n at 2009-09-04 22:04 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
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