印刷用表示へ切り替え 通常表示へ切り替え 更新履歴を表示 更新履歴を隠す
Photo 鯉の甘煮を食べる

正月に鯉料理を食べた。「嫌いな食べ物の思い出は,それの美味しい料理を食べることによって癒される」という思いを強くした。

■ ■ ■
鯉の甘煮
鯉の甘煮


正月に実家に帰ったとき,料理に鯉の甘煮が出てきた。鯉を輪切りにして甘く煮付けた料理である。これが美味しかった。その鯉は平栗商店の品で (【南信州飯田ふるさと便】平栗鯉店),ソムリエの田崎真也の本に紹介されているのだとか。

田崎真也の紹介する品はなかなかよいのだが,困ったこともある。私は以前,四国の栗焼酎「ダバダ火振り」を好んで飲んでいたのだが,田崎氏が紹介してしまったお陰で手に入らなくなってしまった。酒屋の主人の言によれば,品薄で入ってこなくなってしまったとのこと。余計なことをしてくれたよ。本当にもう。

私にとって鯉料理というのは軽いトラウマで,食べられるようになったのは大人になってからのことである。小学生の頃,親戚の長野の家で「鯉こく」という料理が出てきた。鯉を輪切りにして味噌汁にぶっこんだものである (鯉こく - Wikipedia)。鯉はなかなかの大きさのもので,入手してから1か月間,山の湧き水を引いたタライの中で飼い,餌を与えずに,十分に泥を吐かせつつ身を絞まらせたものだった。ところが,これが美味しいと思えなかった。

まず,泥臭かった。これがトラウマになった最大の理由である。内臓もグニグニしていて妙な食感であり,身よりも生臭くて参った。

そして,なぜ輪切りなのか理解できなかった。普通,魚と言えば3枚におろして,内臓は捨てるものである。それなのに,魚の体の構造を無視してぶつ切りにするのが耐えられなかったのである。この不可解さ加減が,鯉こくを長く記憶に留めさせた原因である。不味いだけだったらすぐに忘れるのだろうが,理解できないと考え続けるからである。鯉の次に魚のぶつ切りに出会ったのは,フグの鍋料理だった。その頃私は十分大人になっていて,美味しく食べることができた。それでも「あぁ,ぶつ切りだ」とは思ったのである。よほど鯉の印象が悪かったのだろうと思う。

当時の子どもの私としては,見慣れない料理でも許容範囲の内だった。小鮒の甘露煮は頭から丸ごといけたし,メザシの内臓の苦さも身と一緒ならいけた。蜂の子も大丈夫だったから,許容範囲はかなり広かったと言えるだろう。しかしそれでも鯉だけはダメだったのだった。

それからしばらくは,鯉料理は目にすることさえなかったが,あるとき旅館の料理で久しぶりに出会った。秋田は泥湯温泉の奥山旅館である (みちのくの秘湯・泥湯温泉「奥山旅館」)。これが素晴らしく美味しかったのである。トラウマが溶けて消えていくのが分かったような気がした。蜂蜜を入れて煮込んでいるのだとか旅館のおばちゃんが言っていた。湯治客がメインになっている温泉もこれまたよかった。再び訪れたい温泉である。

先日の鯉を食べているとき「鯉の骨というのは松葉のように2股に分かれていて不思議」だなどと思い,さらには「内臓の複雑な味を味わうのであれば輪切りは合理的な切り方かも」などと,あれほど嫌っていた「輪切り」に対しても新たな解釈を与えることができ満足した。

「『不味くて嫌い』という思い出は,美味しいものを味わうことによって解消される」ということを改めて思った正月だった。

Posted by n at 2010-01-15 23:52 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
Trackbacks

  • 「手違いで複数トラックバックを送ってしまった!」という場合でも気にしないでください (重複分はこちらで勝手に削除させていただきます)
  • タイムアウトエラーは,こちらのサーバの処理能力不足が原因です (詳細は トラックバック送信時のエラー をご覧ください)
  • トラックバックする記事には,この記事へのリンクを含めてください(詳細は 迷惑トラックバック対策 をご覧ください)
Comments
Post a comment
  • 電子メールアドレスは必須ですが,表示されません (気になる場合は「メールアドレスのような」文字列でもOKです)
  • URL を入力した場合はリンクが張られます
  • コメント欄内ではタグは使えません
  • コメント欄内に URL を記入した場合は自動的にリンクに変換されます
  • コメント欄内の改行はそのまま改行となります
  • 「Confirmation Code」に表示されている数字を入力してください (迷惑コメント対策です)


(必須, 表示されます)


(必須, 表示されません)


(任意, リンクされます)


Confirmation Code (必須)


Remember info (R)?