福満しげゆきの「うちの妻ってどうでしょう?」には,普通の四コマ漫画にはない独自のスタイルがある。
福満しげゆきの「うちの妻ってどうでしょう?」は漫画アクションに連載中の四コマっぽいマンガである。これについて書こうと思ってから早4年…。構想だけは長いが,内容は伴っていないのでご勘弁を。実はこの記事を書こうという気になったのは,「うちの妻ってどうでしょう?」が終わりそうだからである。8月19日号の漫画アクション掲載の第182話で「このマンガももうすぐ終わりますので…」と言っているからである。早く書かないと終わってしまう!
「うちの妻ってどうでしょう?」は平成22年度 (2010年度) の文化庁メディア芸術祭でマンガ部門で奨励賞を受賞している (平成22年度[第14回]文化庁メディア芸術祭 受賞作品)。賞を贈られた理由は「妄想とゲーム的観察眼が交差する、新しい私小説的マンガ」とのことだが (奨励賞 - うちの妻ってどうでしょう?),新しいのは私小説的なことだけではない。次の点で他にはない独自のスタイルを持っている。
マネをするフォロワー的漫画家が出てこないので,「革新的」と言えないのが苦しいが,それでもこの独自スタイルは新しい領域を開拓したと言える。以下ではこのそれぞれの項目について見てみることにする。
あまり関係がないが,たまに「イヒーイヒー」と言いながら登場する編集担当の「K澤さん」というのは「國澤さん」のことのようだ (第15回文化庁メディア芸術祭 (2/3) - コミックナタリー Power Push)。
コマ割りは四コマ漫画によくある形なので,四コマ漫画と間違われることが多い。実際,文化庁も間違って認識している。
作品概要
(前略) 小心者な漫画家の「僕」と、美人だけど短気な「妻」。現実と妄想、焦燥と甲斐性が入り混じった愉快な日々の出来事をつらつらと描く、エッセイ風4コママンガ。(後略)受賞コメント
(前略) こんなほのぼのした4コママンガを、このように評価して頂き、ありがとうございます。(後略)
そして作者も話を合わせているところが大人である。大人というよりも,文化庁に歯向かっていかないという点で小心というか弱腰というべきか。それでも,マンガの中と本人の行動が一致している点は統一性があって評価できる (笑)。
さて,マンガの話に戻れば,実際に読んでみるとコマ数は色々になっていることが分かる。極端なところでは,1コマだけの話もあるのだ。例えば,次の図は第9話のコマ割りである。本当は,1回につき全4ページで各ページ8コマ,1ページ目だけは6コマなので,合計全30コマなのだが,間を省略してある。
第9話では,各話の長さは 6, 4, 10, 4, 3, 2, 1 で,最後は1コマだけの話なのである。これは今までにないスタイルである。このコマ配分が気になっているのは私だけではないらしく,情報中毒者、あるいは活字中毒者、もしくは物語中毒者の弁明 では,単行本の各巻のコマ数をすべてカウントして統計をとっている。スゲェ。
普通の四コマ漫画では,最初にタイトルがあってそこから四コマの話が続く。ところが「うちの妻ってどうでしょう?」は話の最後にタイトルがあるのだ。上の第9回の例では,
のように,『「・・・」おわり』がタイトルなのである。
四コマ漫画では,しょっぱなのタイトルに対して四コマを使って最後にオチをつけるというスタイルがとられるのが普通である。ところが,「うちの妻ってどうでしょう?」にはこれといったオチがない。例えば,第9回の一番最後の話は,自転車に乗って夫婦で走っている様子がマンガに描かれていて,以下の説明がある。
自転車に乗るとすぐぶつかってくるので前を走ってもらうことにした
「前を走る妻」おわり
「で?」という感じさえする。しかし,この感じはどこかで見たような…というよりも,最近よく見かけるようになったスタイル。ブログである。人が自分の日常をブログに書くとき,オチはないし,読む側も期待していない。オチを期待しているときに,「それは分かったけど,それで?」となるだけである。そういうわけで,「うちの妻ってどうでしょう?」はブログの漫画版なのである。福満しげゆきはブログを書かないだろうことは容易に予想される。ブログを書いてしまったら,マンガのネタがなくなってしまうからである。
オチがないといっても,「やまなし,おちなし,いみなし」で知られる「やおい系」とは違う。やおい系とは,ボーイズラブのマンガを指すようだ (やおい - Wikipedia)。
先日,阿佐ヶ谷に立ち寄ったところ,「ひるのまじね」じゃなかった「よるのひるね (夜の午睡)」というカフェを見つけた。
店の壁には何やらベタベタと紙が貼ってある。
その中に福満しげゆきが推薦している本があった。たまたま見つけたのでビックリ。その本は1969年発行の長尾みのる著「バサラ人間」だった。
そして,その横には「うちの妻ってどうでしょう?」の第125話が。どうやら,その回の舞台となったのが「よるのひるね」らしいのだ。その回にはモジモジする女性が登場し,福満氏に好意を持っているようなのだが,福満氏に勇気がなかったかタイミングが悪かったかでその女性をまんまと食たべてしまうことができなかったという残尿感,いや残念感で終わるという話だった。福満氏の行きつけの店のような雰囲気だが,どのくらいの頻度でこの店に行っているかは不明である。
つい最近,福満しげゆきのマンガ「ゾンビ取りガール」のアイデアが無断借用されたのではないかと話題になった (「福満しげゆき」先生の漫画「ゾンビ取りガール」が無断でドラマ化された可能性について - Togetterまとめ)。この件について,福満氏は「うちの妻ってどうでしょう?」第185話,第186話で「ゾンビに対する思い」をポエム的な話として描いている。「訴えてやる」ではなく「あくまでポエム」であると。すべてに腰が引けているところに一貫性を感じる。これからも腰を引きつつ頑張って欲しい。
Posted by n at 2014-10-23 23:35 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
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