談話室「滝沢」が3月末で全店閉店となる。ゆっくりと寛げる贅沢な空間がなくなってしまうのは残念でならない。なくなってしまう前にお別れに行って来た。
談話室滝沢が今月末2005年3月31日で閉店となることを知った。新宿の2店舗,御茶ノ水店,池袋店の全てが閉店となる。
新宿、池袋、御茶ノ水駅前に計4店舗を構える「滝沢」の開店は1966年。コーヒーなどの飲み物はすべて1000円と高めだが、入り口に日本庭園風の水鉢などがある「新宿本店」(350席)では、静かな音楽の流れる中で、多くの作家が編集者と打ち合わせをしたり、サラリーマンが商談したりしてきた。全寮制で接客マナーを厳しく鍛えた社員ウエートレスも、名物の一つだった。
その「滝沢」も、5年前に全寮制が廃止され、寮も昨年3月になくなった。「若い人には全寮制が合わないためか人材が集まらず、今はウエートレスの8割がアルバイトとなってしまった」と、経営会社の赤木勝利専務(67)は打ち明ける。セルフサービスの喫茶店が増えたことも、「雰囲気を売る『談話室』というスタイルが時代に合わなくなった」と話す。
滝沢次郎社長(79)は「サービスが低下して皆様に迷惑をかける前に、引き際が大切と思った」と語る。
経営者の心意気が,店の入り口の雰囲気まで溢れているような店だった。閉店の理由も,「採算が合わないから」ではなく,「サービスの質が維持できないから」というところにも強い信念を感じる。サービスの中心はあくまで「場所」の提供であり,「飲み物」ではないことを明確に打ち出している店だった。
池袋駅東口駅前店は,池袋駅東口の三越の隣にある。「滝沢」と書かれた白い看板が目印。この「白色」が滝沢の店の色になっている。
地下1階へ階段を下りていく。階段には緑色のカーベットが敷かれている。これは「抹茶色」なのだそうで,この店の主張するもう1つの色でもある。
一歩踏み込むと,そこには異空間が広がる。店内の光は「白色」,椅子は「抹茶色」で統一されている。230席ある店内はマス目状に仕切られており,多くは2席と4席ずつになっているが,もっと人数が多い場合の席も用意されている。
注目すべきは,この仕切りの高さである。椅子に座ると,他の客の頭が半分見えるくらいの,中途半端な高さになっている。この中途半端な高さは,実は絶妙な高さでもある。考え抜かれた上で設計されていることに感動を覚える。この高さなら,「隣の人の顔は見えないが,店員の顔はよく見える」のだ。一般的に,喫茶店には仕切りが必要である。隣の人の顔が見えるのは邪魔だし,話の内容が聞こえるのもよろしくない。仕切りはこれを遮って(さえぎって)くれるからだ。しかし,逆に仕切りが邪魔になることもある。店員を呼びたい時である。注文をしたいのに,店員が気づいてくれないことが多々ある。これは仕切りが高すぎて,店員への合図まで遮断してしまうのが原因である。
滝沢の仕切りは,この2つの問題を同時に解決している。客同士は分離されているが,店員からは全ての客の顔が見えるのである。店員は常に気を配っているので,顔を少し上げるだけで気がついてくれる。滝沢は,アイコンタクトだけで店員が呼べる店でもあるのだ。実際,喫茶店でよく耳にする「スミマセ~ン」という声は,滝沢では聞いたことがない。
コーヒー1000円,トーストとコーヒーのセットが1100円という不思議な価格設定も滝沢の特徴である。ではトーストは100円なのか,というとそうではない。明らかに物の値段ではないことが分かる。売っているのはあくまで「空間」なのである。とは言っても,いい加減なコーヒーは出てこない。
滝沢のコーヒーの種類には,「コーヒー」「ストロングコーヒー」「アメリカンコーヒー」「ウインナーコーヒー」があるが,「モカ」とか「ブラジル」などのストレートコーヒーはない。つまり,すべてブレンドである。ほとんどの喫茶店で,ブレンドは「一番安いコーヒー」であり,割と「どうでもいい」という位置付けされている。しかし,滝沢のコーヒーは選び抜かれた豆を絶妙のバランスでブレンドしてあるという点で,「本来ブレンドとは何であったか」ということを思い出させてくれるのだ。苦味と酸味のどちらかが突出することはなく,まろやかであり,芳醇な香とともにその味を楽しむことができる。
コーヒーにはミルクがついてくる。ミルク用の小さい器が,皿の上に乗って出てくる。このお皿は,注いだ後のミルクが器から垂れたときでも,テーブルの上の書類等を汚さないための配慮である。こんなところにも気配りが感じられる。
店の出口には「お客様各位」として,閉店のお知らせが掲示してあった。この安らぎの空間がなくなってしまうのはとても残念である。Solitary Travel: 談話室滝沢が今月で閉店 でも言っているように,他に類を見ない独特の
喫茶店が消えるのは寂しいものである。
☆日々の思考☆:談話室滝沢 には,元店員へのインタビューが紹介されている。
2005年4月2日追記:
最終日に行ってきました (nlog(n): 談話室滝沢よ永遠に)。
Master Archive Index
Total Entry Count: 1957
はじめまして!
いつもこっそりロムらせて頂いています。
わざわざコメントくださって、ありがとうございます。
本当にあと2日で閉店なんですね。。。。
父が気に入っていたので、とても残念です。
でも、ケーキのことは知らなかったなぁ。
Posted by: KM at March 29, 2005 23:41いつも遠慮してコーヒーだけだったのんです。
知っていればフルコースで頂いたのに。(笑)
はじめまして。といっても,以前にトラックバックを頂いていたような気もしますが…。
あまりに名残惜し過ぎるので,最終日にも行っちゃいました。3月31日の記事に書きましたので,よろしければご覧下さい。
Posted by: n at April 01, 2005 19:18あぁ、夢が・・・
滝沢一度行きたかった・・・
Posted by: きつ at August 19, 2005 16:33はじめまして。
Posted by: イナヲ at August 30, 2005 21:28「はじめまして」でいきなり不躾ですが、衝撃のニュースだったので、トラックバックさせて頂きました。
一度入ってみたいと10年以上思っていたのに、一度も足を運ばなかった事を悔やんでいます…。
イナヲさん
Posted by: n at August 31, 2005 23:02はじめまして。ずっと気になっているのに,やっていないことというのは,結構あるものですよね。私も気をつけなければと思っています。
トラックバックというものは,基本的に「いきなりで不躾」なものです。それが普通です。お気になされませぬよう。