旧い友人に会ってきた。心に刺さっていた棘が抜けた。
もうかれこれ20年以上前のことである。私が高校生のときに,当時中学生だった友達の大栗くん(仮名)に酷いことを言ってしまったことがあった。悪気があったわけではなく,つい口から出た言葉だった。そのことに自分で気がついて「しまった」と思ったが,どうすることもできなかった。言ってしまったとき,大栗くんがどんな反応をしたかは思い出せない。酷いことを言った自分を思い切り責めたことしか覚えていない。
それからしばらくして,もしかするとあの一言はその人の人生を変えてしまったのではないかと思うようになった。うまく言い訳することもできず,自然と疎遠になっていった。会う機会はなくなってからも,傷つけてしまったという思いが自分の心の中にあった。何とかしたい。そして,決心した。その思いを打ち明け,心から謝ろうと。
どんなに優れた外科医であっても自分の身体の手術はできない。それと同じように,自分の心に自分でメスを入れることはできない。ましてや心理学者でない人間が自分の心をどうにかできる訳がない。他人の力を借りなければできないことなのだ。
この間の日曜日,大栗くんと会ってきた。当時のことと,これまでの思いを話した。本人は忘れていると言っていた。もしかすると,忘れたことにしてくれたのかも知れないが。いずれにせよ,私は気持ちを伝えることができた。謝るというのは,相手のためではなく,自分のためなのだと思った。自分の心が軽くなったのだ (実は,気持ちを伝えることはできたのだが,その確認をすることはできなかった。「そんなことがあったのを覚えている? そのときどう思った?」と聞くのは怖かったからだ)。
その話の後,子供の頃の思い出が次々と溢れ出てきた。家族ぐるみでクリスマスパーティをやったこと。クリスマスケーキはいつもアイスクリームのデコレーションケーキだったこと。海釣りに連れて行ってくれたおじさんがいたこと。浜からの投げ釣りをするのに,竿を使わずに,手で投げるやり方だったこと。サッポロ一番塩ラーメンを茹でずにガリガリ食べたこと。うめぇ,ベビースターラーメンの味が違うやつじゃんと思ったこと(大して美味しいものではなかったのではないかと思うが,そのときは美味しく感じたのだ)。男おいどんを1冊貸してもらったこと。小遣いで少しずつ全巻そろえた男おいどんを親に捨てられ,最近になって大人買いしたこと(nlog(n): 男おいどん買っちゃった)。映画「ジョーズ」のサントラをテントウムシ型のレコードプレーヤーで聞いたこと。カセットに録音させてもらって聞いた後,「個人で楽しむ以外の複製は法律で禁止」というのを知って,友達は個人の内に入るのか分からず,「いけないことだ,捕まっちゃう」と思って泣く泣く消したこと。月光仮面の漫談を大笑いしながら聴いたこと。などなど,話は尽きることがなかった。
気がつけば,話し始めてから4時間が経過していた。時間を忘れて熱中して話したことなんて何年ぶりだっただろうか。
もともと酒には強くないのに,調子に乗って飲みすぎた。帰りは電車で乗り過ごして終点まで行ってしまうし,戻る電車がなくてタクシーを使ったら,お釣りをちょろまかされるし,で散々な目にあった。
しかし,そんなことがあっても十分お釣りがくるくらいの懐かしい時間を過ごすことができた。過去は変えられないが,過去に対する想いは変えられる。心の奥深くに入り込んでいた棘が1本抜けた。
Posted by n at 2007-01-23 23:59 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
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