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韓国人は銭湯で股間を隠さない。日本人は隠す人が多い。日本人の場合は，銭湯が混浴だった時代の影響があるようだ。

以前，韓国旅行に行った折，せっかく来たのだからというので名物の「垢すり」をやってもらうことにした。私は男である。女性の場合，垢すりは一般的なエステであるが，男性用の垢すりをやってくれるところは少ない。少ないが，探せばやってくれるところを見つけることはできる。

その公衆浴場では，希望すると垢すりをやってくれた。もちろん，垢すりの代金は別に支払うのである。垢すりの前に「塩サウナ」というものをやる。これで垢が取れやすくなるのだ。全身にあら塩をまぶしてサウナに入り，出たら流してまたまぶして入るということを数回繰り返す。その後垢すりに入る訳である。ゴシゴシやられて，垢がどれくらい取れたかは分からなかったものの，肌はツルツルになった。姿勢としては，最初はうつ伏せなのだが，仰向けもあった。結構恥ずかしい。極めつけは，足を持ち上げて手で押さえる姿勢である。これが何とも恥ずかしいポーズであって，仰向けで膝を胸につけて足首を両手で持つという姿勢をとらされて，太ももとふくらはぎをゴシゴシされたのである。これならうつ伏せと変わらないではないかと思ったが，もう言われるがまま。マッサージをしてくれる筋肉質の若い兄ちゃんの目の前には，私のおイナリさんの裏側や菊の御門なんんかが丸見えに展開されている訳で，思わず顔をそむけたほどである (女性が裸になって恥ずかしいときに顔をそむけるのはなぜだろうね?)。

前置きが長くなった。その銭湯で驚いたのは，男は誰も前を隠していないことだった。日本人であれば，タオルを前にぶら下げて股間を隠す人が大多数である。そんなことをしている人はひとりもいないのだ。タオルを持っていないか，持っていたとしても肩にかけているのである。

韓国温泉物語―日朝沐浴文化の交流をたどって: 本: 竹国 友康 には，次の解説があるそうだ。

(韓国人はなぜ前を隠さないのか)
朝鮮では儒教の影響下に人前で裸になることを嫌い、「男女混浴」などといういうことは厳しく禁じられていたのです。 温泉や汗蒸幕などでは脱衣場でハダカになっている以上異性の視線は意識する必要はありません、もう一度タオルで隠すなどは過剰な手続きでしかなく、「見れども心に留めず」という作法が韓国人の間で今でも生きているのです。

(日本人はなぜ前を隠すのか)
日本では近世以来都市に公共的な公衆浴場を設けて全身温水浴、いわゆる「風呂に入る」という習慣を定着させました。公衆浴場や温泉では男女混浴で入浴する時は上図のように湯ふんどしや湯まきなどの湯具をつけていたようである。これが浴槽の湯を湯を汚す原因になるので入浴の際次第に湯具をつけず体を拭くためにあった手ぬぐいが湯具の代わりをはたすようになりました。それから入浴する際に前にあてるような作法が出来たのです。

韓国人はなぜ前をかくさないか？

この歴史的な経緯が興味深い。韓国では，人前で裸になるのを嫌う→男女混浴は行われていなかった→異性の目を意識する必要がない→隠す必要がない，となっている。一方，日本では，人前で裸になることに問題はない→男女混浴が行われていた→異性の目を意識→隠す→混浴でなくても隠す，ということなのだ。対応が逆になっているのが面白い。つまり，人前で肌をさらすのに抵抗のある方が，風呂で露出することに抵抗がなく，人前で肌をさらすのに抵抗のない方が，風呂で露出することに抵抗があるということになっているからだ。この逆の対応を導いているのは，異性の目の存在である。私はすでに，混浴であれば敢えて露出していくようなスケベオヤジになってしまっているが，隠したいというのは自然な心理だろう。

現在の日本では，基本的に混浴ではない。とすれば，異性の目を気にする必要がないわけで，股間を隠すことに意味はない。男同士では肉体関係は普通ないので，大きさや形がどうかで付き合い方が変わることはない。それなのに隠す人が多いのはなぜだろうか。「恥ずかしさ」があるのは確かである。私も恥ずかしかった思い出がある。しかし，よく考えてみればその恥ずかしさには根拠がないことは明白である。それとも，いまだに混浴時代の恥ずかしさが代々受け継がれているのだろうか。

韓国に行ったのは10年以上前だと思うが，それ以来，私は銭湯では隠さないようにしている。最初は抵抗を感じるが，慣れの問題である。もうね，ぶらぶらし放題。

韓国温泉物語―日朝沐浴文化の交流をたどって

竹国 友康

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