バレエマンガ「SWAN ―白鳥―」の登場人物が「エースをねらえ!」によく似ている。
「SWAN ―白鳥―」は有吉京子のバレエマンガ作品である (SWAN - Wikipedia)。これの登場人物の設定が「エースをねらえ!」によく似ているのだ。「エースをねらえ!」は山本鈴美香によるテニスマンガで,1973年から1980まで『週刊マーガレット』に連載された (エースをねらえ! - Wikipedia)。「SWAN」も連載は『週刊マーガレット』で,期間は1976年から1981年までなので,開始は「エースをねらえ!」よりも遅い。対応関係は下の表のようになる。
SWAN | エースをねらえ! |
聖真澄(ひじり・ますみ) | 岡ひろみ |
アレクセイ・セルゲイエフ | 宗方仁 |
京極小夜子(きょうごく・さよこ) | 竜崎麗香 "お蝶夫人" |
草壁飛翔(くさかべ・ひしょう) | 藤堂貴之 |
柳沢葵(やなぎさわ・あおい) | 尾崎勇 |
「SWAN」の主人公である聖真澄は,そのまだ開いていない才能をソビエトの舞踊家アレクセイ・セルゲイエフに見出され,特例として選抜メンバーに抜擢される。憧れの女性バレエダンサーは京極小夜子で,男性ダンサーである草壁飛翔に淡い恋心を抱く。草壁飛翔と柳沢葵はライバル同士の関係である。papico さんが指摘するように「SWAN」はバレエ版「エースをねらえ!」なのである (〜漫画読みの読書感想ブログ〜記憶の引き出し 「SWAN―白鳥―」全14巻(秋田文庫))。
ただし,この人物の相関関係ははじめの方だけで,途中から様子が変わってくる。「エースをねらえ!」では,人物の関係が最初から最後まで変わらないのに対し,「SWAN」はだんだん変わってくる。これを「エースをねらえ!」に例えるなら,お蝶夫人は藤堂さんとくっついてしまうし,コーチは死なないけど離れるし,となってくる。もともと違うマンガだから,当然すべてが同じにはならないし,同じだったらおかしい訳だが。
「SWAN」が重点を置いて描くのは,バレエの表現に対する解釈である。ダンサーは,その動きからどのような感情を表現しているのか。その感情はどのような解釈によって生まれているのか。言葉を持たない芸術は,すべてそれだけですべてを表現しようとする。バレエダンサーは,動きだけですべてを表現し,その踊りを言葉で表現することはしない。「SWAN」は,その無言の表現を,絵と言葉で分かりやすく説明してくれるのである。それを知ることは,実際のバレエを観るときの手助けとなる。今まで漫然と見ていたものに,別の視点を与えてくれるのである。作者の有吉京子は,すぐれた批評家であり解説者でもある。バレエを知らなかった人間に,バレエとはどういうものかを教え,さらに高いところに引き上げてくれるのである。
有吉京子は絵がうまい。デッサンがしっかりしているのだ。手足が多少長めになっているのは,少女漫画ならではのご愛嬌。クラシックの世界からモダンの世界に移って行くときに,体の線の描き方が変わるのが興味深い。モダンバレエを踊っている人物は,体の線が直線的に描かれ,肉感的になるのだ。漫画家は,マンガを描いているうちに絵がうまくなる。この作品では,単に上手くなっていることに加え,バレエの質によっても描き方を変えているように思われる。
「SWAN」を15年ぶりに読み直した (単行本で14巻)。この作品は傑作である。
舞台がアメリカに移ったとき,街の風景の中に世界貿易センターのツインタワービルが描かれている。その頃はまだあったのだ (ワールドトレードセンター (ニューヨーク) - Wikipedia)。
Posted by n at 2007-11-25 23:45 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
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