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Photo 「いそげブライアン」を観てきた

東京国立近代美術館フィルムセンターで上映された,小松隆志監督の「いそげブライアン」を観てきた。

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東京国立近代美術館フィルムセンター
東京国立近代美術館フィルムセンター


昨日,東京国立近代美術館フィルムセンターで開催されている「上映会情報日本インディペンデント映画史シリーズ① PFF30回記念 ぴあフィルムフェスティバルの軌跡 vol.1」企画で上映された映画「いそげブライアン」を観にいった。思い出深い作品だったので (nlog(n): 「いそげブライアン」が観たい),休暇をとって観にいったのだった。

開場 17:30,開演 18:00。フィルムセンターに到着したのは,開場の10分前の 17:20。開場を待っている人は1人もいなかった。前売り券を購入する必要はなかった。当日券も余り放題だからである。平日であるし,当たり前といえば当たり前か。

当日券と前売券の料金設定には疑問がある。前売券は800円,当日券は,一般1000円/高校・大学生・シニア800円/小・中学生600円/障害者(付添者は原則1名まで)は無料である (開催要領)。疑問というのは,小中学生の料金である。もし,小中学生が見たいと思い,それが非常に人気のある映画だったらどうなのか。当日券は600円だが,入場できない可能性を考えれば前売券を購入するしかないが,200円高いのだ。前売券は当日券より安くあるべきである。しかも,小中学生にとっては200円の違いは大きい。前売券にも小中学生への配慮が必要なのではないだろうか。

小ホール
小ホール


会場は地下1階の小ホール。「小ホール」といっても,151名収容可能なホールである。数えてみたところ,観客は20名くらいだった。

8 mm フィルム映写機
8 mm フィルム映写機


ホールの後ろ側はガラス張りで,映写室の中が見えるようになっている。中央に 8 mm フィルム映写機が見える。

さて,肝心の映画についてであるが……,私の場合,若いときにこの作品を見たという思い出があって評価にバイアスがかかってしまうが,そのノスタルジーを差し引いても,上出来の映画であるといえる。惜しむらくはかなりフィルムが傷んでいることだ。しかし,この傷みは,上映回数の多さによるものではなく,もともとの製作時からのものなもかも知れない。

この「いそげブライアン」はモノローグによる映画である。67分の上映時間で,ほとんど途切れることなく「語り」が入っている。20年前に観た記憶では,もっと早口でしゃべっているという印象だったが,そうではなかった。早くも遅くもない淡々とした口調のナレーションである。しかし,この映画には疾走感がある。その理由は,映像と音声が別のことをやっているからなのだ。映像と音声のシンクロ率が低いため,観客は,映像の情報と音声の情報を別々に処理しなければならない。つまり,2倍のスピードで映画を観ているのと同じことになるのだ。

映像と音声の配置の仕方が非常に面白い。3つのパターンに分類できる。回想シーンは,記憶にある映像に現在の自分の声でナレーションをつけている。無声映画に音声をつけている感覚である。映像の説明をしているが,そこで起こっている音がそのまま出ている訳ではない。シンクロ率50%である。登場人物がセリフをしゃべっているシーンもある。これは映像と音声が同期しているのでシンクロ率100%。もう1つは,映像と音声が無関係の場合である。音声が,思想,主義,主張など,精神的なものを語るときである。映像は現実を映すものであるから,ほとんどシンクロしなくなる。しかし,まったく無関係なわけでもない。シンクロ率10%。この映画の醍醐味は,映画の大部分を占める,精神世界の言語表現と現実世界の映像表現のリンクにある。「映画はロックンロールでなければならない」と語るとき,映像にはブライアンが走り飛び乗り越える姿が映し出される。その行動は「ロックンロール」であることを感じさせるのだ。この映画は,「人間の思想というものは,言葉だけではなく行動として表れる」ということを主張している。

映像と音声のシンクロ率が低いのは,8 mm フィルムという特性が大きく影響している。映像と音声が同時に収録できないため,アフレコになるからである。映画制作者としては,普通の場合,アフレコの音声を映像と同期させることに神経を使う。しかし,この映画はそれを放棄している。あえて異質のものを入れることによって,アフレコが同期していないときに生まれる出来の悪さを回避し,別の新たな価値を付け加えているのだ。

全体的に素人くさい感じは否めない。実際,監督,出演者ともに素人である。登場人物の名前は,主人公の男たちのブライアン,チャーリー,女たちはアンヌ,アナなどであるが,すべて日本人である。小松隆志が大学4年生のときの作品で,出演者は映画研究会の学生であると思われる。素人ではあるが,本気で取り組んでいる姿勢が素人くささをカバーしている。編集も丁寧に行われている。コマ割りに緩急があり,各所にフラッシュバックが挿入されている。

この「いそげブライアン」という作品は,精神世界の映像化に果敢に取り組み,結晶させた青春映画なのである。

Posted by n at 2008-07-10 23:27 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
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