5年前に話題になった「ナポリタン問題」を今さらながら考えてみる。
ナポリタン問題とは,個人的には,不可解・意味不明な文章を解読しようとして悶え死ぬ自虐ゲームのことである。本当に悶え悩んだ。
ナポリタン問題(なぽりたんもんだい)とは何らかのトリックが隠された一見意味不明な文章、およびこれを解読するゲームのこと
である (ナポリタン問題 - Wikipedia)。オリジナルのナポリタン問題「恐怖のナポリタン」が話題になったのは2004年 (ナポリタンのガイドライン)。謎の文のコピペは以下のものである。探してみたところ,もっとも日付の古いのは2003年7月になっている (ここはとあるレストラン)。
755 :名無しのオプ :03/07/03 18:59
ある日、私は森に迷ってしまった。
夜になりお腹も減ってきた。
そんな中、一軒のお店を見つけた。
「ここはとあるレストラン」
変な名前の店だ。
私は人気メニューの「ナポリタン」を注文する。
数分後、ナポリタンがくる。私は食べる。
・・・なんか変だ。しょっぱい。変にしょっぱい。頭が痛い。
私は苦情を言った。
店長:「すいません作り直します。御代も結構です。」
数分後、ナポリタンがくる。私は食べる。今度は平気みたいだ。
私は店をでる。
しばらくして、私は気づいてしまった・・・
ここはとあるレストラン・・・
人気メニューは・・・ナポリタン・・・
ナポリタン問題とは,「へぇ,そういう店もあるんだ」で終わらせるのではなく,いくつかの疑問を,例えば「とあるレストラン」とあったのは何故か,「ナポリタンの味が変だった」のは何故か,「しばらくして気がついた」とは何に気がついたのかについて,合理的な説明を求める問題のことである。意味不明の文章が,「なるほど,そういうことか」と納得できるような説明ができればOKというものである。
この問題には,「正しい答」,つまりコピペを貼った本人の解説,がない。そのため,様々な解釈が存在する。「ナポリたん」ハァハァ
(恐怖のナポリタンの謎 「ここはとあるレストラン」(CROSSBREED クロスブリード!)),逃れられない螺旋の恐怖を無意識のうちに読者に想像させるタイプの文章
(恐怖のナポリタンその後(CROSSBREED クロスブリード!)),宮沢賢治の「注文の多いレストラン」へのオマージュ (月の裏 「恐怖のナポリタン」の正解),などなど。もっとも有力だと思えるのは,アメリカンジョークの翻訳という説である (slip news clip : 「ここはとあるレストラン」とか「恐怖のナポリタン」とか)。
アメリカンジョークの翻訳だとすると,かなりの部分が説明できる。男が入ったレストランの看板には,次の文言が書かれていたと考えるのである (どこにも「男」と書いてないが,男と仮定する)。
This is a restaurant famous for a Neapolitan.
これを見た男は,「a restaurant」のところに注目し『ここは「とあるレストラン」変な名前の店だ。』と不審に思っている。普通なら「Italian Restaurant」などと書くのに,「a」がついているし,おかしい,と思っている。以前に来たことはないことも分かる。
『私は人気メニューの「ナポリタン」を注文する。』の箇所での疑問は,今まで入ったこともないのに,どうして人気メニューを知っているかということだが,これは表の看板に書いてあったからである。「famous for a Neapolitan」つまり,「ナポリタンで有名」ということである。
男は,「This is a restaurant famous for a Neapolitan.」を「ここはナポリタンで有名な,とあるレストラン」と解釈して,レストランに入ったのだ。しかし後に,男はこの解釈が間違っていることに気づくことになるのである。
「Neapolitan」には,スラングで「不潔な,不味い」という意味がある (Urban Dictionary: neapolitan)。その由来がまた目を覆わんばかりのひどいものなのだが,「ナポリタンアイスクリーム」と言えば,チョコレート,バニラ,ストロベリーの3つを並べたものなので (Neapolitan ice cream - Wikipedia),それらの色からの連想だというのだ。
この場合,「This is a restaurant famous for a Neapolitan.」は,「ここはひどい料理を出すレストランだよ」という意味になる。そして,これを書いたのは店の人ではなく,誰か他の人で,それがもともとの店の看板の上に貼り付けてあったのである。そう考えれば,なぜ「a restaurant」なのかという疑問も解決する。
文法的には,「…で有名な」の意味の「famous for」は,後ろに名詞が続かなければならない。ところが「Neapolitan」は形容詞なので,後ろにさらに名詞を続ける必要がある。したがって,「a Neapolitan dish」の「dish」が省略されていることになる。後ろの名詞が省略されているのでない場合は,「Neapolitan」を名詞のように考えなければならない。「Neapolitan」が「不潔な,不味い」の隠語である場合,「Neapolitan ice cream」の省略であるから,「Neapolitan」そのものを名詞のように扱うことができる (用例 Urban Dictionary: neapolitan)。したがって,「a Neapolitan」は「ひどい料理」を指すという解釈がもっとも合理的だろう。
もし,誰かが,料理のお勧めを書いて貼り付けたものであるなら,「a Neapolitan」とはならずに,次のようになるはずである。
This is a restaurant famous for Napolitan dishes.
This is a restaurant famous for Napolitan cuisine.
This is a restaurant famous for the Napolitan spaghetti.
「Neapolitan cuisine」は前半が英語で後半がフランス語なのでチグハグな印象を受けるが,問題ないらしい (Neapolitan cuisine - Wikipedia)。
『数分後、ナポリタンがくる。私は食べる。・・・なんか変だ。しょっぱい。変にしょっぱい。頭が痛い。』ここでは料理の不味さが表現されている。『頭が痛い』とあるが,ナポリタンアイスクリームを食べて頭がキンキンになったのではないだろう。『お腹も減ってきた』と前で言っているし,作り直させたものを食べたときは『今度は平気みたいだ』と言っているからだ。「ナポリタンスパゲッティ」を食べたのだろうということが想像される。
日本で「ナポリタン」と言えば「ナポリタンスパゲッティ」を指す。この日本の独自ルールは,英語では「Naporitan」のように綴りを変えて表現することで区別される (Naporitan - Wikipedia)。「Naporitan」という単語は英語の辞書には載っていない。日本語だからである。
そして最終的に,『しばらくして、私は気づいてしまった・・・ここはとあるレストラン・・・人気メニューは・・・ナポリタン・・・』のところで,男はその意味にようやく気がついている。つまり,男は
This is a restaurant famous for the Naporitan.
だと思っていたが,実は「the Naporitan」ではなく「a Neapolitan」だったことに気づいたのである。
この「ナポリタン問題」が難しいのは,アメリカのスラングを使う一方で,日本のローカルルールを適用しているからだ。両方の文化を知らないと,意味ワカンネになる。
以上がナポリタン問題の答の最有力候補「日本人の作ったアメリカンジョークの翻訳」説である。作ったのは日本人ではなく,日本をよく知っているアメリカ人かも知れないが。
類似の問題が ナポリタン問題とは - はてなキーワード にある。それらには解答があるのでご安心を。
Posted by n at 2009-01-31 22:54 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
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