一般的な銭湯においては,「脱衣場ロッカーの鍵持ち帰り問題」が発生する。鶴の湯では,この問題を解決するシステムが構築されている。
風呂に入るときには衣服を脱ぐ。温泉地の温泉では,脱いだ衣服をカゴに入れておくことが多いが,都市部における一般的な銭湯では,鍵つきロッカーに入れるようになっている。鍵つきロッカーには様々なタイプがあるが (脱衣場ロッカー),どのタイプであっても衣服や持ち物の盗難防止に役立っている。しかし,鍵をつけたことによって新たな問題も発生する。それは,「鍵を持ち帰ってしまう問題」で,銭湯側の不利益となる問題である。
以下で紹介する鶴の湯にも「ロッカーのカギ持ち帰らないでください」の貼り紙がある。
ロッカーのカギについての注意事項なども掲示してある。ところが,鶴の湯はこの問題を回避するシステムを構築している。シンプルだが効果的なのが驚きなので以下に紹介したい。
一般的な銭湯の場合についてまず説明する。銭湯に入りに来た客は,まず下駄箱に靴を入れ,下駄箱の鍵 (しばしば木製) を持って中に入る。番台で入浴料を払い,脱衣場で空いているロッカーを探し,そこに脱いだ衣服を入れる。下駄箱の鍵は,脱衣場のロッカーに入れるのが普通である。裸になったら,ロッカーの鍵をかけ,鍵を持って浴室に入ることになる。脱衣場のロッカーの鍵には,紛失しないように手首や足首につけるためのゴムがついている。
上の図の矢印は,鍵を持ち歩く範囲を表している。下駄箱の鍵は下駄箱から脱衣場まで,ロッカーの鍵は脱衣場から浴室まで,普通は持ち歩くことになる。
入浴が終わると,ロッカーの鍵を開け,衣服を着て脱衣場を出る。ロッカーの鍵は挿し込んだままにしておく。下駄箱の鍵を開け,靴を履いて銭湯を出る。
ここで問題になるのが,脱衣場の鍵を「うっかり」閉めてしまいポケットに入れたまま帰ってしまうというお客がいることである。鍵がなければ,見た目は「使用中」であることと区別がつかない。うっかり持ち帰る人にとっては,自分は衣服を着てしまっているので,特に不利益はない。不利益を被るのは銭湯側である。鍵が紛失となることがそもそも損であるし,お客に提供できるロッカーが減るのも嬉しくない。
このシステムの問題は,お客個人に自由に鍵を管理させることから生じている,ように見える。
調布市にある鶴の湯のシステムは (鶴の湯(有) - Google マップ),この「ロッカーの鍵持ち帰り問題」を見事に解決している。
上の図で説明する。客は下駄箱に履物を入れ,下駄箱の鍵を持って中に入る。これは他の銭湯と同じである。違うのは,番台で入浴料を払うのと同時に,下駄箱の鍵を渡し,ロッカーの鍵を受け取るという手続きがあるということである。番台のおばちゃんの後ろには,ロッカーの鍵が升目状の棚の中に入れられていて,ここに下駄箱の鍵を入れるのと交換でロッカーの鍵を渡してくれるのである。
帰りは,ロッカーの鍵を渡すと,替わりに下駄箱の鍵を渡してくれる。つまり,ロッカーの鍵がなければ,裸足で帰ることになり,それはあり得ない。したがって「ロッカーの鍵持ち帰り問題」が解決されているのである。
一見すると,このシステムでは,ロッカーの鍵管理を客任せにしていないことが特徴のように思えるが,実はそうではない。鍵の管理を「一本道」にしていることが最大の特徴なのである。下駄箱の鍵とロッカーの鍵を「交換する」という手続きによって,下駄箱の鍵とロッカーの鍵が別々に管理されることを防いでいるのだ。
鶴の湯システムでは,番台でどのロッカーを使うかが決まる。このことは,お客にとってもう1つの良いことをもたらす。つまり副次的効果があるのだ。脱衣場のロッカーを使う場合,使っている人のすぐ隣は使いたくない。他人の扉が開いてくるのは邪魔だからである。横も避けたいし,上下も避けたい。鶴の湯システムでは,どのロッカーを使っているかが番台で把握できるので,飛び飛びのロッカーを割り当てることが可能なのである。
一般の銭湯でも,もちろん,使っている人のすぐ隣は避けることができる。自分で選べるからだ。しかし,後から来た人が無神経だと,自分のすぐ隣を使われることがあり,「なんだよ,うぜー」ということになりかねない。しかし,鶴の湯システムでは,後から来る人の場所も番台で指定できるので,この問題が解消されるのである。ただし,ただしではあるが,これは番台のおばちゃんがそれを認識できている場合に限る。
現在の鶴の湯では,番台のおばちゃんがこれを認識していないため,日替わりで「おばちゃんの気まぐれチョイス」になってしまっている。しかも,ロッカーが横10列なのに,番台の枠は横11列となっていて,ロッカーの並びと対応していない。したがって,プラスの「副次的効果」ではなく,マイナスの「副作用」となってしまっているのだ。これが残念。
実は他にも副次効果的な利点がある。それは忘れ物をしにくくなっているということだ。脱衣場を出てる際,鍵をかけなければならないのでロッカーの中を必ず見ることになる。ロッカーに置き忘れたものがあるなら,その時点で発見できるのだ。
さらに,ネコババ防止にも役立つ。忘れ物をして帰ってしまい途中で気がついて急いで戻ったとしよう。忘れ物がロッカーの中にあるのなら,鍵がかかっているために他人に盗まれることはない。そして,もし別の人が使っていたとしても,ロッカーを使ったのはその人に限定されるから,ネコババしたら犯人が分かってしまう。それを考えればネコババすることは得策ではないことが分かるので,最初からやらないということになるのだ。
以上が鶴の湯の鍵管理システムである。現時点では多少残念な副作用もあるが,一石何鳥にもなっており優れたシステムだと言える。
鶴の湯の番台は入口を入ってすぐのところにあり,男女共用のロビーに面している。つまり「番台」というよりは「受付」である。ロビーには男湯と女湯の入口があり,そこから脱衣場に入る構造になっている。個人的には,番台は男湯と女湯を見渡せる位置にあって欲しい。ロッカーの鍵を「どこにしようかしらねぇ」と選んでいる間に,番台の向こう側の女性とご挨拶できる余地を,可能性だけでも残して欲しいからである。
Posted by n at 2009-11-10 05:12 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
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