内村鑑三著の "Representative Man of Japan" の日本語訳「代表的日本人」を読む。立派な人たちがいたもんだ。訳本はいくつか出ているので選んだほうがいい。
内村鑑三著「代表的日本人」は,外国人に向かって書かれた「日本紹介の本」の日本語訳である。原文は英語で,タイトルは "Representative Man of Japan"。1908年の出版である。この本は1894年に出版にされた "Japan and the Japanese" (「日本及び日本人」) から思想に関する記述を除いて人物論だけを取り上げたものだそうだ (社会資本整備思想と国づくり)。「日本及び日本人」の後,新渡戸稲造の「武士道」(1899),岡倉天心の「茶の本」(1906) が続いて出版されることになる。
語られるのは5人の偉人,西郷隆盛 (西郷隆盛 - Wikipedia),上杉鷹山 (上杉治憲 - Wikipedia),二宮尊徳 (二宮尊徳 - Wikipedia),中江藤樹 (中江藤樹 - Wikipedia),日蓮 (日蓮 - Wikipedia) である。
それぞれの人物の位置づけは以下の通り。
- 義の人〜西郷隆盛〜
- 仁の人〜上杉鷹山〜
- 誠の人〜二宮尊徳〜
- 礼の人〜中江藤樹〜
- 勇の人〜日蓮上人〜
私などは西洋的思想に毒されてしまっていてどうしようもないが,それでも多少は西洋的思想に抵抗を感じている。この本はかつてあったであろう日本的思想を,思想そのものではなく,人物の生きざまを描くことで,表現している。私にとっては,この日本人の思想もあまりにストイック過ぎてそのままの形では受け入れることができない。とは言え,日本人の根底に流れている思想を「思い出す」ための手がかりにはなってくれることは確かである。知らないものを「思い出す」というのはおかしな表現だが,日本で何十年も生きていると知らないうちに刷り込まれていることがあり,明文化されたものを読むといかにも「思い出して」いるような感覚になるのである。
日本語訳はいくつか出ていて,私が手に取ったのは,岬龍一郎訳のものである。選んだ理由は「単に新しいから」。2009年の出版だからである (奥付には「2009年7月27日 第1版第1刷発行」とある)。しかし,初版のためなのか,十分に校正しきれていない部分がある。
その頃,国土を次々と襲った日蓮は,いまなお代表的な名著とされる『立正安国論』(日本に平和と正義をもたらす論) を著した。その中で日蓮は国土を襲ったあらゆる災害を取りあげ,その原因は民衆に誤った教義が広められたためであるとした。
代表的日本人: 内村 鑑三, 岬 龍一郎 p. 177
どういうことなのか分からないが,日蓮が国土を襲ったことになっている。しかも次々と。日蓮さんが最悪の災厄になってしまっている。これでは破壊僧である。日蓮「グハハハ,よいではないかよいではないか」,国土「いや〜っ」。これなら破戒僧。国土萌え。(正しくは,国土を襲ったのは災害である)。
この本の訳本としての前書きには,大事なことが抜けている。それは,他にも訳本が既にある中で,この現代語訳を敢えて出すのはなぜなのか,その意義について書かれていないということだ。他の訳本に対する言及もない。他の訳本は表現が古臭いとか間違っているから出したのか,あるいは単に自分でも訳してみたかっただけなのか,全く分からないのである。訳出に関する注は次のようになっている。
訳出にあたって
- 一 訳出にあたっては,『内村鑑三英文著作全集 第二巻』(教文館,二〇〇四) を底本とした。
- 二 原注は,本文中に ( ) で入れた。
- 三 訳注については,〔 〕で簡潔な説明を入れた。読解を助けるものを主とし,最小限にとどめた。
代表的日本人: 内村 鑑三, 岬 龍一郎 p. 192
ふりがながほとんどないのも残念である。無学な私は,上杉鷹山{ようざん},中江藤樹{とうじゅ} が読めなかった。他にも読めない漢字が多数出てきたが,調べることなく通り過ぎてしまった。
他に出版されている訳本をいくつかあげる。岬龍一郎訳は2番目以降に読むことをお勧めする。
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