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misc サザエさんとクレヨンしんちゃんに見る家族の呼び名の不自然さ

サザエさんは家族の中で「サザエ,姉さん,ママ」というように,いろいろな呼ばれ方をする。小さい子どもがいる家庭でこれはあり得ない。クレヨンしんちゃんのお母さんは,しんのすけから「みさえ」と呼ばれていた。これはあり得る。

■ ■ ■

自分に子どもができてから改めて「サザエさん」を見てみると,とても不自然な印象を受ける点がある。それは家族内での呼び名である。これに対し「クレヨンしんちゃん」は,かつては自然だった。

サザエさんの場合

「サザエさん」では,サザエさんは,家族からそれぞれの立場によって違う呼び方をされている。

波平・フネ・マスオからは「サザエ」、カツオからは「姉さん」、ワカメからは「お姉ちゃん」、タラオからは「ママ」、カツオの友人達には「磯野君のお姉さん」、商店街の店主たちからは「若奥さん」、従兄弟・ノリスケをはじめとしたその他の人物からは「サザエさん」と呼ばれる。

サザエさんの登場人物 - Wikipedia

一見では当たり前のように思える。ところが,これは普通の家庭では起こらないことが含まれているのである。時間を追って順にみていくことにする。

まず,サザエさんが生まれた時点では,サザエさんは波平とフネから「サザエ」と呼ばれることになる。これは普通である。そして,カツオとワカメが生まれ,カツオからは「姉さん」,ワカメからは「お姉ちゃん」と呼ばれるようになる。このとき,サザエさんは,父母からは「サザエ」,きょうだいからは「姉さん,お姉ちゃん」と呼ばれる。これもよくあるパターンである。

問題は,サザエさんとマスオさんが結婚してタラちゃんが生まれたときの呼び名である。タラちゃんがサザエさんを「ママ」と呼ぶようになったとき,普通の家族であれば,家族全員はサザエさんを「ママ」と呼ぶように呼び方を変えるものだからである。変えざるをえないのだ。そうでなければ,タラちゃんが混乱してしまうからなのである。幼児は,立場による呼び方の違いを認識できないからなのだ。

基本的に,家族構成に変化があった場合

  • 家族の構成員は一番小さい子どもを基準にした呼び名に統一される

のが普通なのである。少なくとも父親と母親に対しては「ひとりの人にひとつの呼び名」が絶対なのである。

サザエさんの呼び名
サザエさんの呼び名


振り返ってみると,難しいのは,カツオが幼い頃のサザエさんの呼び名である。このとき,サザエさんは同時に2つの呼び名を持つことになる。「サザエ」と「姉さん」である。実際に磯野家ではどうだったのか分からないが,よくある戦略としては,カツオに「姉さん」という呼び名が定着するまでは,波平とフネはサザエさんのことを「姉さん」と呼ぶことにするというものである。あるいは,サザエさんに「サッちゃん」などの愛称をつけて,家族全員でこれに統一してしまうという方法もある。これならカツオが小さかろうが大きくなろうが呼び方を変えていくという面倒な手間が発生しない。しかし,番組的には「サッちゃん」では意味が分からなくなってしまうので,当然ながら却下される。

小さい子どもは,他の人が呼んでいる名前で,自分もその人を呼ぶようになる。サザエさん登場人物の呼び方が表になっているものすごいものを見つけてしまった (永久保存版!「サザエさん」呼び方、呼ばれ方リスト)。これによると,タラちゃんはカツオとワカメのことを「カツオお兄ちゃん,ワカメお姉ちゃん」と呼ぶということになっている。もしタラオの立場を厳密に考えるならば「カツオおじちゃん,ワカメおばちゃん」となるのが正しい。これはタラちゃんが,立場を正確に把握しつつ相手を呼んでいるわけではないという証拠であり,これはすなわち,あの家族の中でたったひとりだけサザエさんを「ママ」と呼ぶことが不自然であるという証拠にもなっているのである。

クレヨンしんちゃんの場合

一方,「クレヨンしんちゃん」では (クレヨンしんちゃん - Wikipedia),主人公の野原しんのすけは母親のことを「みさえ」と呼んでいた。

最初にこれを知ったとき「母親に向かって『みさえ』かよ!」と驚いたが,これは,父親の野原ひろしが「みさえ」と呼びつづけたことに対する結果であり,ごく自然なことだったのである。野原ひろしは意識的に「みさえ」と呼びつづけたのである。なぜなら,もしそうでなければ,しんのすけが「みさえ」と呼び始めたそのとき,すぐに「ママ」とか「お母さん」「おっかさん」「おっかあ」「かあちゃん」「母上」などに変えるはずだからである。もし野原ひろしが「おまえ」と呼んでいたら,しんのすけも母親のことを「おまえ」と呼ぶようになったに違いない。

ものごとを曲げてしまう世間の目

最近では,クレヨンしんちゃんでしんのすけは母親のことを「みさえ」ではなく「かあちゃん」と呼ぶようになっている。一方で,父親のひろしは「かあちゃん」と呼んでいない。これはサザエさんと同じパターンになってきていることを意味している。クレヨンしんちゃんがTVアニメになった当初,「母親に『みさえ』とは何ごとか」と問題になったことがあった。おそらくはそれが原因で,現在の「かあちゃん」に落ち着いたのだろう。しかし,その世間が納得する呼び名は,普通の家庭ではありえないような不自然なものだったのである。

サザエさんの呼び名も,もしかすると,このおせっかいな「世間の目」によって矯正されたのかもしれない。そのとき,世間の目は,タラちゃんの呼び方だけに向けられ,他の家族を含めた全体の呼び方には向けられなかった。これはクレヨンしんちゃんの父親ひろしの呼び方が変わらなかったのと同じである。「世間の目」が気にするところは局所的なのだ。悲しいことに,その変更によって生じる不整合はどうでもよいということなのである。

「それが問題だ」と言い出したのは,声の大きいごく一部の人なのかも知れない。しかし,その声に多くの人が賛同したために,この結果を招いたのだ。他人の意見を取り入れると,自然であったものが曲がってしまうという好例 (悪例) である。

我が家では

本サイト管理人の家庭ではどうかというと,父親である私は「パパ,お父さん,父上」のどれかで呼ばれていて,「パパ」が一番多い。使い分けはしていないようだ。実家に帰省したとき,私の親は私のことを,子どもがいるときは「パパ」,子どもがいないときは名前を呼び捨てにする。3歳以上になれば,呼び名と名前が違うことが認識できるようになるが,それでもやはり,大人たちは子どもの前ではひとつの呼び名で統一するように気をつけている。

タラちゃんの声優の貴家堂子(さすが・たかこ)さんは今年70歳になられたそうで (『サザエさん』タラちゃんの声役の声優、70歳になる - Ameba News [アメーバニュース]),40年以上も年齢を感じさせないというのは流石プロフェッショナルである。

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Posted by n at 2011-06-07 23:37 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
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