最近の学童用の書道セットには,プラスチックのすずりが入っている。固形の墨も入っているが,墨汁使用がメインである。
我が家の小学生の子どもには,冬休みに「書き初め」の宿題が出た。
小学3年生になると書道の授業が始まる。我が家でも書道セットを購入したわけだが,驚いたのは硯{すずり}がプラスチック製になっていたことである。
私が小学生だった頃というのは約40年前で,あまりに昔の話で気が遠くなりそうだが,習字の時間の大半は硯で墨を磨って過ごしていた記憶がある。40分授業だと30分は準備と墨すりと片付けで,書いている時間は10分程度だったように思う。墨をする時間は,墨をするという技術を学び,心を落ち着ける時間になっていた。当時の書道セットにも墨汁は入っていたが,積極的に使わせない教育だったように思う。墨を磨るときに,磨り方が甘いと書いた文字が薄い灰色になってしまい,にじみやすいため,できるだけ濃くなるように懸命に磨っていた。磨っていると粘り気が出てくるので,それを「海」に流し,海から水を引き上げてきてまたするということを繰り返す。うっかりすると,墨が「グキッ」と向こう側に倒れてしまい,指が真っ黒になるということも経験したものだった。私自身のこだわりは,墨を平らに減らして行くことだった。力の入れ方が偏っていると,だんだん斜めに削れていってしまうのである。
しかし,そのようなことはあまり重要ではないのかも知れない。プラスチックの硯を使って墨汁{ぼくじゅう}で書くというのは合理的なのである。石の硯と固形墨の欠点は次のとおりである。
プラスチック硯と墨汁であれば,これらの点はすべて解決。気持ちを落ち着かせて精神統一とか,濃い墨のありがたさを学ぶことはできなくなるが,短い授業の時間の中ですべてを教えるのは不可能である。何かに重きを置けば,別の何かは減らさざるをえないのだ。
硯という漢字は,「石へんに見る」と書く。「見」は「けん」という音だけに用いられていて,「見る」という意味はないそうだ (硯(すずり) - 語源由来辞典)。素材がプラスチックになった現代,「すずり」という漢字は「プへんに見る」でもよいのかも知れない (笑)。
書き初めは宿題として学校に提出したが,市の展覧会に出品するものは,別に学校で書かせるとのこと。親が手伝った作品が入選してしまうという「事故」を防ぐためのようだ。
Posted by n at 2015-01-13 22:26 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
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