中学時代にお世話になった先生が亡くなった。数学の面白さを教えてくれた先生だった。
年が明けてから一通の寒中見舞いが届いた。見ると,差出人は知らない女性の名前なので,妻にそのまま渡してみると自分宛てではないという。もっとよく見ると,それは中学時代にお世話になった先生の奥様からの手紙だったのである。年末にご主人が亡くなったということがその手紙には書かれていた。
最後の最後になって水くさいじゃないですか,先生。
癌だということが分かって入院することになったのが2年前。その連絡をもらったので,入院の直前にお会いして話をした。そのときは5年ぶりくらいで,その前にお会いしたときには,子育てについてアドバイスをもらったりした。松田道雄の「育児の百科」がいいというので,図書館で借りてみたら分厚くてがっちりした本で,病気のことなどがとても詳しく書かれていた。かたくて厳密な数学の先生らしい推薦だと思ったことがある。今回の入院はまず検査で,抗癌剤治療になりそうだという話をされていた。
それから1年経った去年,病状と経過についての手紙が届いて,その記述の仕方がこれまた非常に詳しくて,数学の先生の書く文章らしくて,内容はシリアスなのにおかしかった。自分はもう末期であるので,治療は望めないため緩和ケアを受けることにしたとのことだった。私にできることはもうなにもなかったので,近況の報告をしたり,中学校の校舎の写真を送ったりした。苦しみは少なくて逝けたのだろうか。
ありがとうございました。ゆっくりお休みください。
お葬式には参列したかったですよ。
何かを好きになるきっかけというものは,たいていはごく単純なことやつまらないことで,それでもそこに新鮮な驚きがあったときである。
私は小学生の頃から算数は得意な方で,割と好きな科目というくらいだったが,好きを決定づけられたのが中学時代だった。今でも覚えているのは図形の証明問題で,それにはとても驚いた覚えがある。「これはスゴい」と思ったのだ。その問題というのは「対頂角は等しい」ということを証明するものだった。証明問題の一番初めのものだったように思う。「対頂角」というのは,2本の線分の交点にできる向かい合う角のことである。中学2年生で習うことのようだ (中学校数学 2年生-図形/図形の性質 - Wikibooks)。
先生は黒板に,上の図のように図形と仮定,結論をまず書いた。
それから証明を書いていった。
これにはびっくり仰天した。
私は,「向かい合う角が等しいって? そんなの当たり前」…のように思っていたが,当たり前だとしたら説明してみろと言われてもできなかったのである。つまり「なんとなく」当たり前だと思っていただけだった。しかし,そこで示された証明は,誰の目から見ても納得のできるものだった。私はこのとき,「今まで思っていたことは,実は当たり前ではなかった」ということを思い知らされたのである。
図形の証明問題はその後ずっと続き,すべてこの「図形,仮定,結論,証明」の形式をとって,淡々と進められた。痛快だった。先生は「数学は面白い」などということはひとつも口にしなかったが,それが逆に含蓄として心に残っていったのだった。
Posted by n at 2015-01-24 19:54 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
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