nlog(n)

「顔じゃないよ，心だよ」と言う言葉がある。ところが「年をとったら自分の顔に責任を持て」とも言われている。つまり，「顔だよ」。心なのか顔なのか…実はどちらの言葉も正しいのだ。

子どもの頃，「顔じゃないよ，心だよ」と言われたことがある。フーテンの寅さんの台詞(せりふ)にもあった。この言葉が意味しているのは，目鼻立ちの美しさより，内面の美しさの方が大切だということである。ただし，言葉というのは，言う相手によって意味合いが若干違うのはよく知られたことである。美男子とは言えない男には，「目鼻立ちが悪くても，内面がよければいいのだ。努力せよ」と聞こえる。美しくないことの慰めに聞こえることもあるだろう。一方，美男子には，「目鼻立ちが良くても，内面がついていかなければ何もならない。努力せよ」と聞こえる。内面がついていっていないという嫌味に聞こえることもあるだろう。

一方で「年をとったら自分の顔に責任を持て」という言葉もある。整形するわけでもないのに，顔が変えられるかのようである。

一見，相反する2つの言葉は，実はそれほど違うことを言っていない。どちらも間違っていない。正しいのだ。つまり，

• 目鼻立ちではなく，内面の方が大切だ
• 内面は，表情となって顔に出るものだ

と言っているに過ぎない。ここで登場するのが，「表情」というキーワードである。この「表情」とは，自分の心にある「自信」に裏打ちされている表情のことを意味している。

人間には喜怒哀楽があり，表情となって顔に出る。喜怒哀楽だけでなく，微妙な心理変化も表情として顔に出る。そして，人はズバリその心理変化を見抜く力を持っている。顔の造作がどうであっても，表情は必ずある。その表情こそが大切なのである。

しかし，目鼻立ちの美しさが表情に影響することがあるので，話は複雑になる。目鼻立ちが美しければ，それだけで皆から好かれるので，自分に自信が持てるのである。お得である。男性の場合，子どもの頃に持てる自信と言えば，「顔が美しい」の他にも沢山ある。「体が大きい」「力持ち」「かけっこが速い」「頭がいい」…。変わったところでは，「チンコがデカイ」というのもある。子どもの頃は，ただそれだけで自信につながる。「根拠のない自信家」は，実は子どもの頃の自信をいまだに持ち続けているだけなのだ。

さらに難しいのは女性の場合である。「顔が美しい」ことが自信につながり，自信が持てれば表情も豊かになって，さらに魅力的になる。自分の目鼻立ちに自信が持てないと，表情も暗くなり，魅力が半減してしまう。これは，「顔の美しさこそ唯一の美しさだ」という誤解が原因である。「目鼻立ち」と「表情」はどちらも「顔」の表現なので，誤解が多いのは当然とも言える。しかし，最大の悪は，女性を目鼻立ちで評価するという社会である。

男というものは，嬉しい表情をしてくれる女性を好きになる動物である。楽しそうな表情を見せてくれれば，どんな努力だってするのだ。自分に心を開いている女性は，美しく見える。その女性は表情が豊かになっているからである。さらに，心を開いた女性は瞳孔も開くので，目がキラキラになるのである。

「年をとったら自分の顔に責任を持て」は，まさに表情のことを言っている。ただし，瞬間的な喜怒哀楽の表情というよりも，もっと内面的な含みを持つ表情のことを指している。そして，その表情を長年続けていると，顔に刻み込まれてしまうのだということを言っている。私はそんな年齢になってしまった…。

2005年1月31日追記:
追記をしました。詳細は右上の をクリックしてください。

• Tweet