今年は世界物理年。その冬のイベントとして,「弦が結ぶ音楽と科学のハーモニー」という企画が開催された。
前もって応募が必要だが,入場は無料。アインシュタインと物理学と音楽を結ぶ素敵なイベントだった。アインシュタインが1905年に革命的な3本の論文を発表し,それから100年後の今年2005年を「世界物理年」としたとのこと (世界物理年2005)。場所は東京は渋谷の初台にある東京オペラシティ コンサートホールである。
最初に,テキサス農工大学名誉教授のジョセフ・ナジバリ氏 (Joseph Nabyvary) による30分の講演があった。講演は英語。少しハスキーヴォイスで発音はドイツ風だったが,専門用語はなく,丁寧な話し方で聞き取りやすかった。何よりありがたいのが,講演の内容はすべて日本語訳され,プログラムに書いてあったことだ。つまりアンチョコあり。聞き取れなくても,手元を見れば意味がわかるのだ。研究のきっかけは,ナジバリ氏がアインシュタインの所有していたヴァイオリンを弾いたからだという。アインシュタインのヴァイオリン Postacchini, 1865 はそれほど高級なものではないとのことだった。
講演の内容は,「ストラディヴァリウスの音色には,木に染み込ませた防腐剤と表面のニスが大きな関与をしている」ということだった。科学的な,特に化学によるアプローチである。どのような防腐剤を使っていたかは資料が残っていない。また,防腐剤がどのくらいの効果を与えるのかも実証できない。さらにストラディヴァリウスは壊して分析することもできない。そこで,様々な防腐剤や,他の古楽器のニスに似たものを使って自分で作ってみたというのだ。そして出来上がって4週間という,まさに出来たてのヴァイオリンが持ち込まれた。
千住真理子さんによると,そのヴァイオリンは新作であるにも関わらずオールドヴァイオリンのような響きで,どちらかというとストラディヴァリウスというようりもグァルネリ・デル・ジェスの作品に近いという。音としては古楽器なのに,弾いているとニスが溶けてきてくっつくような新作の特徴があるのは初めての体験とのことだった。
続いて千住真理子さんのヴァイオリン演奏があった。普通ピアノ伴奏がある曲も,ヴァイオリンの響きができるだけ聞き取れるようにとの配慮から,ピアノなしの演奏となった。こういうことは大変珍しく,その場にいることができたのは幸運だった。曲目は次の通り。Amazon.com で試聴ができるのだが,似たような曲名が沢山あって探すのに一苦労。
バッハのアダージョは,「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」の中の1曲。バッハがヴァイオリンのために書いた曲の一番最初の曲とのこと。ヴァイオリンが響く和音が沢山使ってある名曲という解説があった。
ドヴォルザークのユーモレスクは,アインシュタインが好んだとされる曲。千住さんがヴァイオリンを始めるきっかけになったのは,アインシュタインによるこの曲の演奏だったかも知れないとのことだった。
パネルトークでは,「物理学や数学の美しさと音楽の美しさは同じだ」という話が出た。私も同じ美しさがあると思う。しかし,どこが同じなのかは説明することができないので,もどかしい。
東京オペラシティの中庭には,大きな人の形の彫刻があった。口がパクパク動いている。作品名は「シンギングマン」で,作者はジョナサン・ボロフスキー (Jonathan Borofsky)。これの小さいやつを,瀬戸内海の直島{なおしま}という小さな島のベネッセハウスというところで見たような気がする。
世界物理学年を記念した企画には,特別展 アインシュタイン 日本見聞録 2005.12.20(Tue)-2006.02.26(Sun) というのもある。
Posted by n at 2005-12-13 23:56 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
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