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misc 不幸な論理学者ルカシービッツ

発音が難しいから名前は省略で。ポーランド記法を考案した論理学者は不当な扱いを受けている。

■ ■ ■

ITmedia +D PC USER:HP製高機能電卓に25周年記念モデル によれば,HP 12c という電卓が発売された。14700円だそうで,ちと高い(Vis-a-Vis - hp 12c platinum -)。この電卓は逆ポーランド式の入力ができるのが特徴である。以下はこの電卓のことではなく,ポーランド記法にまつわる不幸な話である。

逆ポーランド記法 (Reverse Polish Notation) というのは,演算子を演算対象の後ろに書く記法で,後置記法とも呼ばれる(逆ポーランド記法 - Wikipedia)。

逆ポーランド記法
逆ポーランド記法


日本語の表現は逆ポーランド記法に近いと言われている。「(1+2)*3」を人に伝えるのに「括弧・1たす2・括弧とじ・かける3」と言うのは不自然である。「1と2を足したものに3をかける」と言う。つまり「1 2 + 3 *」と言っていることになる。これはすなわち逆ポーランド記法である。演算子を前に書いた場合は「逆」をつけないで,「ポーランド記法」という。

さて,この表現方法は「ポーランド」の国名がついているが,ポーランド人がみなこの記法を使っているかといえば,そうではない。この記法を考案した論理学者が,たまたまポーランド人だったというだけなのだ。

ダグラス・ホフスタッター著の 4826900430メタマジック・ゲーム―科学と芸術のジグソーパズル の379ページには次のように述べられている。

演算子を演算されるものの前に書く記法は,コンピュータがこの世に存在するより前に,ポーランドの論理学者ルカシービッツによって発明された。残念ながら Łukasiewicz という名前の発音が英語国民の手に負えなかったために,この記法はポーランド記法と呼ばれている。

要するに「発音が難しいから,ポーランド記法でいいや」ということになってしまったのである。そんな乱暴なことがあっていいのだろうか。「ルカシービッツ記法」でいいではないか。

とは言っても,実は日本人にも難しいらしい。ポーランド記法 - Wikipedia には「ヤン・ウカシェーヴィッチ」,人物のページには「ヤン・ウカシェヴィチ」となっているのだ(ヤン・ウカシェヴィチ - Wikipedia)。ウクライナ出身の女優の扱いと同じだ(nlog(n): ジョボビッチかヨボビッチかヨヴォヴィッチか)。ルカシービッツの出身はルヴフだそうで,現在のウクライナにあたる。ウクライナの人は名前に不当な扱いを受けやすい。

Łukasiewicz の L には斜めの線が入っているのが正しい。フォントがない場合は Lukasiewicz と書かれる。発音が難しい上に,文字も難しい。

しかし,よく考えてみれば,「難しい」とは単に「慣れていない」というだけなのだ。だから「慣れていないから省略しちゃえ」というのは乱暴なのである。

私は,心の中では「ルカシービッツ記法」と唱えながら,口では「ポーランド記法」と言うようにしたいと思っている。

Posted by n at 2006-07-04 23:10 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
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