ネズミモチの花の香りが漂っている。小学生の頃,刺さない蜂を獲ったことを思い出す。
ネズミモチの小さくて白い花が咲いている。ミツバチがやって来ている。ネズミモチは,実の形も面白いが(nlog(n): ネズミモチの果実),花の香の方が特徴的である。
ネズミモチの花の香を嗅ぐと,子供の頃に蜂を獲って遊んだことを思い出す。香は遠い記憶を呼び出してくれるのだ。その蜂は手でつかんでも刺さない蜂だった。その蜂は黒い体が黄色いフサフサの体毛で覆われていた。
私の育った昭和40, 50年代の東京都目黒区祐天寺地方では,通称キーグマと呼ばれていた。黄色いクマバチの意味なのだろう。この蜂には他にもハナマルなどの通称があった。油面{あぶらめん},鷹番{たかばん}方面では「ライポン」と呼ばれていた (◆蛙の水鏡◆: ◆“ライポン”と呼ばれる蜂)。地域がすこし違うと,蜂の存在もなかったようだ(キミは「ライポン」を見たか!?-cyunbooまったり日記)。ライポンという名前がなぜついたかは不明である。黄色くてふさふさしているのがライオンに似ているからだろうか。「ライ」がライオンなら「ポン」は何?当時ライポンという洗剤が売られていた。ライオン年表【製品の歴史:ライオン石鹸(株)〜ライオン油脂(株)】 に「ライポンF」の説明がある。
1956年(昭和31)
世界で初めての野菜果物・食器洗い専用の台所用洗剤「ライポンF」を日本食品衛生協会の推奨第1号品として発売、全く新しい市場分野を開拓。
野菜果物を洗う。今では考えられないが,当時はトマトやレタスなど,野菜を洗剤で洗うというのがトレンドだった。テレビコマーシャルでもジャブジャブ洗っていた。ひどい時代だった。
さて,小学生だった頃,この蜂の名前が知りたくて図鑑で調べ,「トラマルハナバチ」によく似ていることが分かった。しかし「刺さない」とは書いてなかった。刺さないという,常識とは違う性質なのにも関わらずどこにも書かれていなかった。同じ花に来る蜂には,同じような形で色が黒いのがいた。これも図鑑で調べると「クロマルハナバチ」によく似ていた。こちらは刺すのである。黒い蜂には通称がなかったように思う。獲っても面白くないからである。
インターネットのお陰で,この刺さない黄色い蜂の名前は「コマルハナバチ」であることが分かった。そのオスである。コマルハナバチ に美しい写真がある。黒くて刺す蜂はコマルハナバチのメスだった。違う種類の蜂だと思っていたら,同じ種類のオスメスの違いだったのだ(マルハナバチの仲間)。巣は見たことがなかった。六角形の巣ではないそうだ(マルハナバチの仲間)。コマルハナバチはマルハナバチの仲間である (マルハナバチ - Wikipedia)。
当時の有力情報 | 正しい名前 | |
黄色で刺さない | トラマルハナバチ | コマルハナバチ(オス) |
黒色で刺す | クロマルハナバチ | コマルハナバチ(メス) |
「当時の」とは今から30年前を指し,「有力情報」とは昆虫図鑑で調べた結果を意味している。図鑑といえば,2001年発行の 東京少年昆虫図鑑 には,この蜂のことが思い出の虫として紹介されているらしい。
蜂の毒針は,産卵管の変化したものである (ハチ - Wikipedia)。であるから,もともと産卵管を持たないオスの蜂は刺さないのである。これはコマルハナバチの働き蜂がオスである情報と一致する。よく考えてみれば,産卵管が毒針になってしまっているメスの蜂は卵を埋めないということであり,そういう運命とはいえ,なかなかに悲しいものがある。
キーグマが獲れる場所は,ネズミモチの花が咲いているところだった。祐天寺地方の超ローカル情報ならば,スーパーサンワの向かいの丸十{まるじゅう}ベーカリーの隣,あるいは目黒五中の北側の空き地で沢山獲れた (nlog(n): さらば目黒五中)。先日行ってみたところ,パン屋はなくなり,その隣は建物になり,空き地は駐車場になっていた。空き地の奥に流れていた,白いモヤモヤが水の中で揺れていた,誰かが落ちて泣きべそをかいた,あのすごい悪臭のするドブ川は塞がれていた。
蜂の遊び方は,ダンゴバチ情報局 で紹介されているのと同じだった。
- 胴と腹の間の節に糸を結んで,そのまま飛ばす
- 羽をもいで歩かせる
- ひたすら捕りまくる
- 手のひらでそっと包み,羽ばたく音を耳元で聞きながらくすぐったい感触を楽しむ
- メスには昆虫採集キットの赤や青の薬品を注射し,そのまま放つ
とても残酷である。遊んでいるつもりが実はひどいことをしてしまっていて,沢山殺すことになってしまった。弱いものいじめをするとどうなるのか,死とはどういうことなのか,虫たちに教えられた。
2015年12月5日追記: 「東京少年昆虫図鑑」にはマルハナバチの記述がありましたが,たった一言だけでした。ちょっと期待はずれ。
Posted by n at 2006-07-03 22:40 | Edit | Comments (4) | Trackback(0)(オオスカシバを) 間近で見ると,黄緑色というか,鱗粉がこってりとまぶされたウグイス餅みたいな胴と,背に一本白と赤の帯をあしらったデザインがなかなか美しい。こういう胴体の配色も,マルハナバチ (このハチも刺さないが) あたりのセンスを彷彿とさせる。
泉麻人(文) 安永一正(絵) 「東京少年昆虫図鑑」 「路地裏のオオスカシバ」の項 pp. 61-62
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つい最近、この蜂を見かけて、とても懐かしく、先に書こうと思っていたところでした。
Posted by: kirin_3 at July 04, 2006 18:33ネズミモチではなく、ツツジにの花の周りを飛び交っていました。
黄色いのと黒いのはオスメスだったとは...。
詳しく調べてくれてありがとう。
見かけましたか!私は最近この蜂に出遭っていません。刺さないというのは突然変異体かと思ったりしましたが,そうではないようです。
Posted by: n at July 04, 2006 23:07油面小学当時ライポン捕まえてました、昭和40年代小学生のときです、ブーンと遅く飛ぶ蜂だったので捕まえやすく3−4人の友だちと楽しんでました。 胴と丸いお尻のあいだに糸を軽く巻いて 1メートルくらいの糸の端を指にからめて遊んでました、懐かしい。
Posted by: oyaji at June 22, 2011 22:17oyaji さん
Posted by: n at June 23, 2011 02:59この時期になるとネズミモチの花が咲いて,当時のことを思い出します。