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misc 使えない人「容疑者室井慎次」

踊る大捜査線で渋いキャラクターだった室井管理官は,映画「容疑者 室井慎次」では使えない人として描かれてしまった。ネタバレ注意。

■ ■ ■

映画「容疑者室井慎次」のテレビ放映を見た。この「なんじゃこりゃ映画」にこれ以上時間をかける必要はない,ブログに書くなどやめておいた方がお得と妻に言われ,確かにその通りだと思って1日経ったが,何だか悶々とした感じが消えない。メモ程度でも残しておくことにした。

以下では作品の内容に触れてしまうので,これから観たいという人にはお勧めできない。

『踊る大捜査線』スピンオフ企画ということで,主役は柳葉敏郎演じる室井慎次である。「スピンオフ」と聞くと,勤務していた会社をやめた人が新しく別の会社を作るというイメージがあるが,既存の物語作品から派生した別作品のことも言うらしい(スピンオフ - Wikipedia)。今まで語られることのなかった室井の過去が明らかなるらしいが(Yahoo!映画 - 容疑者 室井慎次),全く印象にのこらない。

まず脚本がいかん。脚本を担当しているのは監督でもある君塚良一氏である。演出もいけない。

室井を弁護するのは,田中麗奈演じる女弁護士。彼女のキャラクター設定がなってない。「体育会系です」という本人のセリフ通り,学生時代は陸上部という設定である。しかし,体育会系としてのキャラクタづけは「走ることだけ」なのだ。室井に接見しに行くときも走るし,沖縄での取材帰りにも走る。走るからといって,別に急いでいるわけではないという点が難解である。また,室井と最初からタメグチなのも疑問である。体育会系は上下関係が厳しい。上の者には敬語を使うということは叩き込まれているはずである。室井容疑者は別に上でも下でもないが,初対面であれば敬語を使うのは当たり前。先輩がいないという特殊な部活だったのだろうか。さらに,夜中に競技場のトラックを走るシーンも意味不明である。競技場にはライトが点いているが,彼女1人しかいないのである。夜に競技場に忍び込むのは不可能だし,さらにライトを点けるのも不可能である。むしゃくしゃした気分を晴らすためだけにナイター設備付きの競技場を借りるのは無理がありすぎる。

この女弁護士は,警察が嫌いだという設定になっている。唐突に「私,警察が嫌いです」と室井に言う。しかし,これは不要なキャラクタづけである。ストーリーに関係してこないのだ。警察が嫌いということで,室井に意地悪をするとか,協力しないとか,そんな話は最後までない。警察が嫌いになった原因は,この女弁護士が顔を切りつけられるという事件に巻き込まれたときに,警察の対応が不誠実だったからである。しかし,それが弁護にどう影響するのかが描かれていない。事件のことを思い出しながら自分の髪の毛をいじるシーンが40秒もある。その間はずっと黙っている。放送事故かと思った。ちなみに切りつけられた事件があったのは,プールである。陸上の部活とも関係がない。

この女性は,まだ弁護士になりたてである。この室井の弁護を通じて成長するのかと思ったが,これがしなかった。映画の最後の方で,相手弁護士の揚げ足をとって勝ち誇るだけである。

意味のないエピソードは,女弁護士の警察嫌いだけではない。いっぱいある。飛行機が雪で飛ばなくなるシーンがあるが,その後ですぐに飛ぶ。一瞬だけ飛ばさないようにする意味はない。飛行機が飛ばなければ,室井も飛ばされないかという淡い期待を持たせるだけだ。そんなことはあり得ない。

哀川翔演じる巡査部長のいる所轄の様子も意味不明だ。新宿北警察署の外ではドラム缶で焚き火をしている。いつも強い風が吹いており,飛び火して火事になりそうだ。場末の劇団のテント小屋のような見た目である。そんな警察署はない。中に入ってみると,人がウジャウジャいて,これがみな警察関係者なのだが,全員がチンピラにしか見えない。

このチンピラ警察関係者の行動も不明である。冒頭で,重要参考人である警官が逃げ出すシーンがある。これをチンピラ全員で追いかけるだけならまだしも,捕まえることができずに死なせてしまう。逃げた警官はトラックに轢かれてしまうのだ。見た目も悪いが,頭も悪い。そんな演出でよいのか。

警官を轢いたトラックの運転手については,何も語られない。裏で手を引く悪を,このあたりで絡ませて欲しかった。事故に見せかけた殺人だったとか。そしてトラックの運転手から黒幕が割り出されるというように。しかし,逃げ出した警官が死んだのは,本当に単なる事故なのだ。深みがない。

記者会見場のライティングもおかしい。真っ暗なのだ。カメラのフラッシュはその分印象的になるが,そんな会場はない。

ストーリーとしてはありきたりでも,やはり巨悪を見つけて退治して欲しかった。最初は容疑者だった人間が,最終的にはヒーローになる,というのがいいのではないか。しかし,最終的には「左遷される人」になる。腰がくだけた。

室井の逮捕は,警察上層部の派閥争いに利用される。警察庁と警視庁の争いである。捜査本部が解散になっても,室井は「真実を知りたいだけだ」といって捜査を続行する。命令を無視した室井の行動が上層部で問題になるのだ。室井の「真実を知りたい」という姿勢はいい。しかし,大量の人間を投入してたどり着いた真実は,あまりにつまらないものだった。不良が1人つかまっただけなのだ。不良といっても人を殺してはいるが。その人殺しの事件には警官が関係しているが,その警官は死んでしまうので,警察内部の膿があぶり出されるわけでもない。室井が固執した事件の真相は,投入した人員に見合わないものだったのである。室井さん,あなたの直感はそんなものかよ。これでは無能だと思われても仕方ない。左遷は正しい判断である。しかし,ドラマとしては大きな問題が残ってしまった。青島刑事との約束は果たせなくなったのだ。こんな展開でいいのだろうか…。

この左遷は,実は温情措置である。本当なら懲戒免職のところを,哀川翔の巡査部長が筧利夫演じる警視正に頼み込んだからだ。しかし,人情で解決するのは問題がある。人間関係で何とかしてしまうのをよしとすると,上層部の派閥問題の人間関係を否定できなくなってしまうからだ。

八嶋智人演じる弁護士の灰島はイヤなやつだが,別にどうでもいい。いつもゲームばかりしている。頭のキレる変わり者は,遊んでいても仕事ができるということなのだろうか。ゲームについているキーホルダーが,別の作品(交渉人 真下正義)の犯人が持っているキーホルダーと同じらしいのだが,関係が不明である。交渉人の犯人には,弁護士がつかない。犯人は捕まる前に自爆してしまうからだ。犯人はコンピュータに精通していた。だから多分ゲーム好きなのか。「ゲーム好きは地下鉄のキーホルダーが好き」ということなのだろうか。無理がありすぎる。

弁護士の灰島は,お金で動く。室井を訴えたのもお金のためである。しかし,そのお金は悪の手による闇のお金ではなかった。事件の鍵を握る女性の父親が,サラ金で借りて作った金である。サラ金のキレイなお金だった。

そういえば,交渉人の犯人もよく分からなかった。コンピュータネットワークを思い通りに扱えるという設定なので,警察の内部情報もネットワーク経由で取得していることは想像に難くない。しかし,それ以上の情報を知っているのがおかしい。なぜ交渉人真下の恋人の今日のスケジュールを知っているのか。警察データベースでデートのスケジュールが管理されていたのだろうか。踊るスピンオフシリーズを何だかんだ言って観てきたが,二度とみないぞ。

みんなのシネマレビューでの評価は,現時点では10点満点中4.83点(容疑者 室井慎次)。思ったより評価が高いので驚いた。0点か1点くらいが妥当ではないだろうか。ロボコン0点(古すぎる)。

映画「サイン」では気持ちがオシャマランかったが(nlog(n): 監督が「サイン」に込めたメッセージとは),この映画もかなりのものだ。こんな映画を撮ったのは誰だ? キミッか! …ダジャレのキレも悪い。

メモ程度で済まそうと思ったが,勢い余ってこんなに書いてしまった。スッキリしたが,無駄だった。華麗にスルーできなかった。スルーどころか,体力まで使ってしまったのでオウンゴールしてしまったのかも。自業自得である。

Posted by n at 2006-10-23 03:33 | Edit | Comments (7) | Trackback(1)
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Comments

踊る大捜査線で 大儲け!

余ったお金で なんか撮っちゃおうか!

どうせ撮るなら どうせそこそこは当るから

何でも良いっか?!ww

で 撮れたのがあれでしょうからww

Posted by: maro助 at October 23, 2006 20:46

この分析を加味してドラマを作り変えるか、さもなければ、映画「容疑者室井慎次」 を検証する、というスピンオフ企画をやったら面白そう!

Posted by: やいっち at October 27, 2006 07:45

maro助 さん
踊る大捜査線スピンオフ企画で「踊らされた」のは視聴者でしたね。

やいっち さん
そのスピンオフ企画は,単なるメイキングだったりして。

Posted by: n at October 27, 2006 21:01

この映画で私の感じたことをすべて書いて頂き,
ありがとうございました。
TOEICテスト受験を来週に控え,
でもやっぱりガマンできずに
真下正義⇒室井慎二と立て続けに見てしまい,
踊るファンのみんな,これでいいの?
こんな内容で満足なの?と
頭の中が???で埋まっていたので
溜飲が下がりました。
安心して勉強に戻れます。

Posted by: uzumaki at October 21, 2007 12:15

uzumaki さん
実は,私もまた見てしまいそうになって,ここに書いたことを読み返しました。危うく「内容がつまらない→内容を忘れる→もう一度見る→なんだこれは!」の悪循環に巻き込まれるところでした。
テスト勉強頑張ってください。

Posted by: n at October 22, 2007 00:13

うーん、少しひねくれた見方が強いですね。
まぁ、よく言えば求めるところが玄人すぎるってことでしょうか・・・

確かに事件の結末などの設定は安易で、拍子抜けした感はありますが、この映画は室井慎次の人間性をメインテーマに描いていると推測できますからね。
それなりの完成度と満足感はあると思いますよ。

それと、青島との約束が果たせなくなったとも決めつけられません。和久さんもいなくなったので、”踊る”の制作は難しいと思いますが・・・

Posted by: GG at November 03, 2007 19:45

GG さん
映画には人それぞれの見方があってよいと思います。
「少しひねくれた見方」というのが,どの場面におけるどのような見方を指しているのか,具体的に指摘していただけるとありがたいです。それがあれば,建設的な議論ができると思います。なければ,単に印象だけの話になってしまい,話は噛み合わなくないでしょう。

Posted by: n at November 04, 2007 22:07
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