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misc 期待しなければ楽しく読める「王様は裸だと言った子供はその後どうなったか」

作者の世界に入り込めるかどうかで楽しいかどうかが決まる本。私は入り込むまでに時間がかかってしまった。

■ ■ ■

森達也著の「王様は裸だと言った子供はその後どうなったか」は,作者の描きたい世界に入り込んで同期することができれば楽しく読める本である (王様は裸だと言った子供はその後どうなったか (集英社新書 405B): 本: 森 達也)。私は別の期待をしてしまっていたので,同期するまでに時間がかかってしまった。この本には全部で15のパロディが収められているのだが,最初の数話は読むのが苦痛だったのだ。途中からは楽しく読めるようになった。

私が期待を抱いてしまった理由は,先月 はてなブックマーク が沢山ついた書評を読んだからである。以下に一部を引用する (空気が読めない醜いアヒルの子〜『王様は裸だと言った子供はその後どうなったか』森達也著(評:朝山実) (毎日1冊!日刊新書レビュー):NBonline(日経ビジネス オンライン))。

「幸福の王子」のお話を、覚えていますか?(中略) 王子とツバメの話で、ワタシは小学校の国語の時間の記憶がよみがえった。お決まりの感想文を求められたのだ。

〈王子はどうして、ツバメを死なせてしまったのか。ツバメを殺したのは王子だ。だから、王子が嫌いになり、銅像が壊されたときには、スッとしました〉

「感じたままに書けばいいから」の言葉を真に受けて、思ったままに書いて提出したら、放課後、教室に居残ることになった。黒板を背にした女教師の眉の間には、深い縦皺ができていたし、哀れむような目をしていた。ツバメを見つめる王子も、きっと同じ目をしていたのだろう。

著者はこの「幸福の王子」について、原作のナゾを埋めるように書き足していく。

「原作のナゾを埋める」というのは面白い。面白いが,諸刃の剣でもある。私はこれにざっくり斬られてしまった。このパロディ集が次の条件で書かれていることを期待してしまったのだ。

  1. 原作のナゾを指摘する
  2. 原作の世界の中で,ナゾを埋めるように物語を書き加える
  3. 書き加えた世界の中で,別の視点からの物語や,物語のその後を描く

例えば,森のくまさんの謎 のような手法である。しかし,これは間違った期待であった。作者は,もとの世界にとらわれず,自由な空想の羽を広げて飛び立ってしまう。「桃太郎」の話に至っては,時代が現代になってしまっているのだ。

(pp. 28-29)
桃から生まれた桃太郎は,やがて立派な青年へと成長し,優秀な成績で大学を卒業して,正義を愛する崇高なジャーナリストになりました。テレビ映りもよいので,よくゲストコメンテーターとして番組に出演し,隣近所からも立派なお仕事をなされてと評判がよく,おじいさんとおばあさんはもう鼻高々です。

時代は現代なのだが,犬とサルと雉は登場する。そのままの姿で撮影クルーとして登場するのだ。この設定は微妙である。ちぐはぐな印象があるのだ。一部は桃太郎の物語のままで,一部の設定を変えているからだ。現代版とするなら,もはや動物の姿は捨てたほうがよかったのではないか。全面的に設定を変更してしまうのなら,それはそれでついて行きやすい話になっただろう。

「裸の王様」には次のような設定がある。

(p. 18)
読者もそろそろ気がついているかもしれないが,この父親は今でこそ農夫だが,若い頃は学生運動の過激な闘士だった。

これは王様は裸だと言った子供の父親である。微妙に現代っぽい。著者本人と息子の話が導入にあるので,物語の父親と著者自身を重ね合わせていて,実は著者は学生運動に参加したことがあるのかと思ったのだが違うようだ。学生運動は1960年と1970年がもっとも活発だったが (学生運動 - Wikipedia),著者の森達也氏は1956年生まれなので,1970年時点では14歳ということになる。学生運動に参加するには早すぎるのだ (森達也 - Wikipedia)。本人としてそれほどリアリティがないのであれば,無理に設定しない方がいいのではないだろうか。しかも,学生運動の話がなければ,妙に現代チックになってしまわないという利点もある。

ここからは私の妄想の話。話に出てくる「王様」は,でっぷりとした中年のイメージである。手元に「裸の王様」の本がないので,記憶が曖昧なのだが,そういう設定なのだろうか? もし,若くてハンサムで筋肉質の肉体の王様だったらどうか。子供の発言をうやむやにするのは,女たちだったり。子供はお家の中で遊ぶことを強制されるだろう。あるいは,女王様が出てきたらどうなのか。王様の奥さんが若くて美人で,王様が「お前にもこの素敵な着物を着せてやる」と言って,正直者にしか見えない着物を着せるとか。男たちは,正直者かは関係なく,絶対に見えるというだろう。何が見えるかは具体的にしない。正直な子供はその後どうなったか? 「どうして言ってしまったのだ!」…袋叩きである。

本を読み進めるうち,ようやく作者の世界に入っていけたのは,55ページから始まる「赤ずきんちゃん」からである。その話の中では,4つの違和感があげられている。

(pp. 57-60)

  • 違和感その1 そもそも「赤ずきん」って何だ?
  • 違和感その2 なぜ一人でお使いに行ったのか?
  • 違和感その3 病で臥{ふ}せっている祖母は,なぜ森の中で一人暮らしなのか?
  • 違和感その4 なぜ狼は,祖母の家の場所を聞いたその時点で,赤ずきんを食べなかったのだろう?

そうそう! こういう展開が欲しかったのだ。こういう導入をしてくれれば,多少話がそれていってしまっても,ついていける。

さて,この本のパロディ15話のタイトルは次のようになっている。王様は裸だと言った子供はその後どうなったか(仮),桃太郎,仮面ライダー ピラザウルスの復讐,赤ずきんちゃん,ミダス王,瓜子姫,コウモリ,美女と野獣,蜘蛛の糸,みにくいあひるのこ,ふるやのもり,幸福の王子,ねこのすず,ドン・キホーテ,泣いた赤鬼。1話目のタイトルだけ妙に長く,その他は短い。短いというか,パロディ元の原題あるいは通称である。形式が統一されていないのだ。つまり,1話目のタイトルは「裸の王様」にして,サブタイトルを「王様は裸だと言った…」にすべきだったのだ。第1話だけにサブタイトルがついているというのもバランスが悪いので,他の話についてもサブタイトルが欲しくなる。そこで,2話目以降のサブタイトルを創作してみた。

話番 タイトル サブタイトル (1話目以外は創作)
第1話 裸の王様 王様は裸だと言った子供はその後どうなったか
第2話 桃太郎 正義を愛すジャーナリスト桃太郎
第3話 仮面ライダー 職業としてのショッカーの憂鬱
第4話 赤ずきんちゃん おばあさんと狼の裏事情
第5話 ミダス王 すべてのものを黄金にする手を持つ王様の耳は驢馬の耳
第6話 瓜子姫 純粋だが醜い妖怪のスプラッター的最期
第7話 コウモリ 賢い動物のはずが狡猾だと歪められた訳
第8話 美女と野獣 美女が愛したのは野獣であって王子ではないとき
第9話 蜘蛛の糸 お釈迦様の凡ミス
第10話 みにくいあひるのこ 子供に読み聞かせてたら突っ込まれた
第11話 ふるやのもり ハザードは小さいがリスクは大きい古屋の漏り
第12話 幸福の王子 インタビュー・ウィズ・作者・バイ・つばめ
第13話 ねこのすず トムとジェリー仲良く鈴つけな
第14話 ドン・キホーテ セルバンテス作品を少し真面目に読み解けば
第15話 泣いた赤鬼 不安や恐怖が共同体の危機管理意識を刺激するとき

これが上手いかというと…どうだろうね。難しいものだ。

Posted by n at 2007-10-30 03:49 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
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