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misc 『自分の小さな「箱」から脱出する方法』が行う概念の可視化

『自分の小さな「箱」から脱出する方法』は,「箱」という,単純でありながら,よく知っているものを使うことで,心理的な概念の可視化に成功している。

■ ■ ■

アービンジャー インスティチュート『自分の小さな「箱」から脱出する方法』 は,ジ・アービンガー・インスティチュート「箱―Getting Out Of The Box」 の復刊である。著者は,旧版では「アービンガー」,新版では「アービンジャー」となっている。英語の綴りはどちらも Arbinger である。Arbinger とは,アービンジャー(Arbinger)は、古代フランス語で「harbinger」と綴り、「これから起こることを示唆する、予示{よじ}する、先人」を意味します。アービンジャーは、harbingerから変化し、先駆者(さきがけ)を意味します。 とのこと (アービンジャーとは:自分の小さな箱から脱出する方法:箱の法則:ARBINGER INSTITUTE JAPAN)。Harbinger の発音は「ハービンジャー」である (Yahoo!辞書 - harbinger)。

さて,この本が主張するのは,自分自身の考え方を見直すことで,対人関係の改善を図ることができるというものである。対人関係が上手くいかないと感じるとき,その原因は自分自身にあるというのである。その原因とは自己欺瞞{じこぎまん}である。自己欺瞞とは自分をだますことである (【欺瞞】 - goo 辞書)。自己欺瞞により,他人との対立関係が発生し,信頼関係が喪失する。

自己欺瞞は「自分に対する裏切り」とも表現される。裏切りとは偽善である。自分を正当化するために,言い訳をし,相手を悪者だと決めつける必要が生じる。相手は不当な扱いを受けるため,関係は悪化するのだ。

この本では,「自己欺瞞」が「箱」という言葉で表現される。「箱」という,単純でありながら,よく知っているもので表現することにより,次のことに成功している。

  1. 言葉の持つ固定観念の排除
  2. 概念の可視化
  3. 自身の問題の客観化

「言葉の持つ固定観念の排除」が意味するのは次のことである。「自己欺瞞」「自身への裏切り」「偽善」などの言葉には,ある種の固定観念が存在する。そして,その固定観念は人それぞれ少しずつ違っている。したがって,それらの言葉を直接使うことは,著者が本当に伝えたいことが伝わらないという危険がある。そこで,「箱」という,物としては一般的ではあるが,心理的には一般的でない用語を使って説明している。

「概念の可視化」とは次のようなことである。概念を説明するのには,説明する側とされる側の共通認識が必要になる。心理的な概念であれば,例え話がよく用いられる。この本では,その「例え」として「箱」というものを使っている。「箱」は目に見えるものであるから,共通認識を作りやすいのである。

最後の「自身の問題の客観化」については次の通り。問題は自分自身にあって,本人がその問題に向き合わなければならない。これは結構つらい。そこで,自分自身のことであっても,他人の問題のように見せることが必要になる。他人の問題であれば,本人は第三者的な視点を保つことができ,正しく認識することができるようになる。相手から指摘されるときもそうである。自分の問題を指摘されると,攻撃されているように思えてしまう。そして,その指摘が正しいものだとしても,防衛本能が働いてしまい,受け入れることができなくなってしまうのだ。この防衛本能も1つの「箱」であり,「箱」の説明をしたいのに,「箱」によって防御されてしまっては元も子もなくなってしまう。

「箱」という概念の利点は,上にあげたように多いのだが,欠点もある。この話を知らない人には通じないということである。知らない人間にしてみれば,「『箱だ,箱だ』って何のこと?」となる。説明しようとすれば,本1冊分が必要。つまりこの本を読ませるということになってしまう。

「箱」を別の例えで表現するなら,「壁」だろう。「箱に入っている人間」は「壁を作っている人間」でもある。知識や思想に関する壁には「バカの壁」がある (nlog(n): 「バカの壁」を読んで)。これに対し,「箱」が扱っているのは,自分と他者の間にある壁である。

人間誰もが自分の箱を持ち,箱に入っている。しかし,その箱の存在に気づき,箱から出ることが大切だという。箱から出るには,自分の考えに疑いを持ち,見直せばよい。しかし,これは言うほど簡単なことではない。「自分の考えは間違っているのかも知れない」と常に考えている訳にはいかないからだ。

難しいのは他人の箱である。他人が箱に入っているとき,その箱から出させることはできるのか? 答は場合によって違う。

  • 私の箱が原因で,相手が箱に入っている場合,私が箱から出れば相手は箱から出る
  • 私の箱が原因でなく,相手が箱に入っている場合,私が箱から出ても相手は箱から出ることはない

相手を箱から出すには,会議室に呼び出して「君には問題がある」から始め,本1冊分の説明をする必要がある。この本の中で,登場人物が行っていることそのものである。現在,Amazon では「なか見! 検索」でその出だしを読むことができる。

本の内容は読みやすい。しかし,段落が読みづらい。大部分が1文で1段落なのだ。1つの文が終わると,改行して字下げ。会話文の中でも改行につぐ改行になっている。もしかすると,本の厚さは半分で済むのではないだろうか。本の厚さを半分にして,値段も半額に…は無理か。

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自分の小さな「箱」から脱出する方法

5つ星のうち4.3

アービンジャー インスティチュート,金森 重樹,冨永 星

Posted by n at 2008-02-17 23:41 | Edit | Comments (0) | Trackback(2)
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自分の小さな箱から脱出する方法☆
 まだ読んでないから  感想文! って事にはならないのだが・・・w  オイラがチョクチョクお邪魔する nlogさん http://nlogn.ath.cx/archives/000976.html  そこで紹介されていたのが この{自分の小さな箱から脱出する方法}    前にも このn... Trackbacked from: Let’s enjoy at February 24, 2008 20:29
『自分の小さな「箱」から脱出する方法』(アービンジャー・インスティチュート)1
■おととしでた『自分の小さな「箱」から脱出する方法』(大和書房)は、あやしげなビジネス書みたいな、あやしげな ふんいきを ただよわせる... Trackbacked from: タカマサのきまぐれ時評2 at September 03, 2008 22:32
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