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misc 「日本人の英語」に出てくる「電子レンジの猫」

マーク・ピーターセン著「日本人の英語」は,英語の考え方の本質を日本語で解説した本である。

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マーク・ピーターセン著「日本人の英語」は,英語の考え方の本質を日本語で解説した本である。とても丁寧に書かれている。ユーモアもたっぷりである。次のエピソードを交えながら自己紹介をしている。

私は,英和大辞典を壁に放り投げ,研究室の窓を開けて「日本語が嫌い」と叫んだことがある。恐ろしいことに,それは,日本語で叫んだのである。かなり夢中になっていて,かなり頭がおかしくなっていたので,日本語に関しての不満を日本語で言ってしまった。これは自分からいうのはおかしいが,そういうような精神状態を読者にも薦めたいと思う。(p. 9)

夢中になりすぎ。

外国語が難しいのは,語順が難しいのでも,覚える単語が多いからでもない。その国の文化の根底に流れる思想が,日本と違うからである。語学は,思想を反映しているにも関わらず,思想そのものは語るわけでなく,しかも表面しかない。これは,動物の体の動きを外見からだけで推測しなければいけないという状況に似ている。外側だけを見て,筋肉の働きを想像し,そこから動きを考えなければならない。猫の体の構造を知っているから,動物はみなこんなものだろうと思っていたら,鳥は全然筋肉のつき方が違って驚くという感じである。この本は,動物の体に例えるなら,その筋肉のつき方と動き方を教えてくれる本である。内容は非常に充実しており,書き方も丁寧である。それに加え,重要なことから先に書かれているので,途中で読むのをやめたとしても,少なくとも最重要点だけは知ることができるようになっている。

例文の中に「電子レンジの猫」の話が出てくる。

日本語に比べれば,英語は確かに「数」に対してくどいところもあるかもしれないが,次の例文をみれば,その精密さの力も感じられると思う。

This actually happend to a Chicago woman, a friend of my mother. One day her cat came in out of the rain all wet, so she put it in her microwave to dry it off. The cat exploded and breaking her jaw. She sued the microwave company, claiming a defective door latch, and won a huge settlement of the damages. (これは,私の母の友達で,シカゴに住んでいる女性に実際にあったことだ。ある日,彼女の飼っている猫がびっしょり雨に降られて家に帰ってきた。乾かしてやろうと思い,猫を電子レンジに入れて,スイッチを入れた。そうしたら,猫は爆発してしまい,彼女はぱっと開いたレンジのドアで顔を打ち,あごの骨を折ってしまった。ドアに欠陥があったといって,彼女はメーカーに対し訴訟を起こし,損害賠償で大金をもらったという。)

まず注意してほしいのは,a frienda の使い方である。この a では,私の母に友達が複数いるということが分かる。"a friend of my mother" という意味は,いうまでもなく,one of my mother's friends である。もし,母には友達が一人しかいなければ,正確な言い方は the friend of my mother あるいは my mother's friend となる。英語で考えるとき,無意識の中にもこのような「数意識」は常にある。(pp. 43-44)

電子レンジの猫はアメリカの都市伝説だと言われており,ジャン・ハロルド・ブルンヴァン著「消えるヒッチハイカー」に紹介されているという (電子レンジ猫訴訟)。この本の書かれたのは1988年2月で,消えるヒッチハイカーよりも後である。

この例文で興味深いのは,訴えた理由が「ドアのできが悪いから」ということである。巷でよく聞かれる「猫を入れるなと説明書に書いてなかったから」ではない。それにしても何というスルー力だろうか (スルー力とは)。内容には一切触れず,冠詞の使い方だけに焦点を当てている。

冠詞に関しては (ダジャレかよ),「冠詞は名詞の前にくっついているアクセサリーではなく,むしろ名詞が冠詞の後ろについたアクセサリーである」という旨の説明に驚いた (名詞がアクセサリーというのは私の言いすぎ)。知らなかった。名詞が単数だから「a」をつけるのではなく,「a」をつけてから単数の名詞として何を持ってくるのか考えてつけるのだというのだ。

この本で素晴らしいのは,「それは間違いだ」と言って終わりにするのではなく,間違いの理由を説明してくれることである。そしてまた,「一般には間違いだが,こういう文脈なら間違いでない」と言って,その文脈を示してくれるのが何よりありがたい。

都市伝説の件はともかく,日本人と英語ネイティブの人の考え方の違いを,言語という切り口から明快に見せた,素晴らしい本である。

Posted by n at 2008-09-21 01:53 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
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