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私は警官に「国」を訊かれたことがある。故郷のことではなかった。

私が今よりも若かった頃，つまり昨日より前のこと，というよりずっと昔の20歳台前半の頃の話を，職務質問を断る記事を読んで思い出した (ちょっと知識と勇気があれば誰でも職質は断れます！ : Think Gaikotsu, Act Lefebvre. RLL)。

その頃の私は，知識も勇気もどちらもなかった。

日が暮れかける頃，自転車にまたがって交差点で信号が変わるのを待っていると，1人の警官が，自転車をじろじろ見ながら近寄ってきた。警官は近くの交番から歩いてきていたようだった。

警官「ちょっと，きみ，国はどこ?」
私　「東京ですけど?」
警官「いや，国だよ」
私　「え? 日本とかそういう…日本ですけど」
警官「じゃ，気をつけて」
私　「…?……!!」

そう言って警官は去っていった。私は意味が分からず，ぽかんとしていた。信号が変わって自転車をこぎ出し，少し行くとだんだん意味が分かってきた。かなり失礼な話なのである。

まず最初に「国はどこ?」と聞かれたときは，「ふるさとのことを『お国』と言ったりするから，遠くから出てきたなら大変だね」という意味かと思ったのだ。しかし，見ず知らずの警察官がそんなことを心配してくれるはずはない。次の「いや，国だよ」でそれははっきりした。「国籍」を聞いているのだと。そして日本人ならば用はないと言う。

やはり失礼な話である。私が外国人に間違われたから失礼だと言っているのではない。「外国人であればお前の乗っている自転車はどうしたのだ?」と言うような (言っていないが)，偏見が失礼なのである。

しかし，その本意を聞き出すのは難しい。今の私であれば，逆に「どうしてそのようなことを聞くのですか?」と聞くことができるだろう。ところがそれを流暢な日本語で言うのはまずい。日本人だというのがバレてしまうからだ。日本人であれば終了なのだ。いや，それでも食い下がって聞けば何か言うかも知れないが。カタコトの日本語で答えて，警官が何か言い始めたら，それを逆に問い詰めるとか，…いろいろと難しそうだ。咄嗟{とっさ}にカタコトの日本語なんて出ない。

その警官が，本当に警察官だったのかも確認しなかった。まあ，そんなことを訊いてくるのはニセ警官ではないだろう。今度そういう警官が来たら訊いてやろうと思っているが，その「今度」がなくなってしまった。職務質問を受けることがない。

失礼な警官の話はおしまい。

かく言う私は，若い頃によく外国人に間違われた。しかも南方系。海外旅行に行ったときの経由地クアラルンプールの直前では，入国用のカードが配られたのだが，私の紙の色だけ周りの日本人と違っていた「ちょっ，帰国じゃないよ!」。居酒屋で外国人に間違われたときは，「ニポンジン，ミンナシンセツ，very good ネ」などと答えると，酔っ払いのおっさんが「まぁ，がんばれよ」といって酒をおごってくれたっけな。あのときはご馳走さま。若い頃はチョー適当だった。すんごく適当に生きていた。そして今も適当である。

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