nlog(n)

「どうも前に進めない」というような心理的なストッパーがかかったのを感じたときは，実際に後ろ向きに歩いてみることをお勧めしたい。今の状態が実感できるし，いろいろな発見もある。

人は何かを考え，それを実行して毎日を過ごしている。最終的に，その人の人生というのは，実行したことの積み重ねだけであり，考えというものは後には残らないのだが，そうであっても，考えと実行は人生の両輪になっている。目標がないと道に迷ってしまうし，目標が高すぎて実践が伴わなくても進めない (nlog(n): 片足では遠くまで行けない)。

さて，私は，たまに元気がなくなって，気分が後ろ向きになってしまうことがある。いくつかの原因となる心理的要因が重なってそうなっているのだが，自分でもよく分からない。こんな状態になったときに，私がやることを紹介する。根本的な解決ではないかも知れないが，効果があるのは確かである。

やることは次の通り。

1. 人の多いところに行く
2. しばらく立ち止まる
3. 後ろ向きに歩く

これをやるにはかなりの勇気が必要なのだが，これは何ともならない。勇気がない場合は，立ち止まってしばらく周りを見渡すだけでもよい。後ろ向きに歩くというのは，つまり後ずさりするということだが，人の多いところでこれをやるとぶつかったりして迷惑だし，嫌な顔をされると心に打撃があってかえって逆効果になるので，強くはお勧めしない。

人の多いところというのは，例えば，大きめの駅のコンコースで広くなっているところがお勧めである。通路にしばらく立って，人の流れを見ていると，それぞれ自分の行く方向に歩いているのが分かる。当たり前である。そこでもう少しよく観察する。急いでいる人，友達と話しながら歩く人，誰かを待っている人，いろいろな人がいる。その様子は，多くの人たちの人生の一場面のようにも見える。みなそれぞれ別の方向に歩いていっている。あるところでは同じ方向に歩くが，少し先に行くと違う方向に分かれていく。目的地はみな同じではない。人生の目標も他人とは違っていい。そんなことが実感できる。心配して声をかけてくれる人もいたりする。

立ち止まることまでできたら，残るは「後ろ向きに歩く」である。これは恥ずかしいので，帰り道に他人のいないところを見計らってやるとよい。歩いてみると，結構難しいことが分かる。少し先に目標を見つけて後ろに進む。ずっと後ろ向きでは歩けない。目標を振り返り振り返り，確認しながら歩くことになる。最初はどんどん進めるが，すぐに速度が遅くなる。歩幅が狭くなって恐る恐るになる。電信柱に当たらないように，穴に落ちないように，犬の糞を踏まないように，自動車や自転車にぶつからないように，など，避けるべき危険が沢山あることにも気づく。

そうなのだ。普段は気がつかないが，普通に前を見て歩いているときでも，多くの危険を回避しているのである。生きているだけでもすごいことなのだ。さて今の自分の状態はどうかといえば，「後ろ向きな気分」のために，すべての危険に注意をしなければならない。必要以上の注意を払わなければならないのだ。進んでいないのにフル回転している。結果が出ないのに人一倍疲れる。そんな状態でも，それを把握できれば，次に何をするかを選択できるようになる。後ろ向きと同じ速度で前向きに歩いてもいいし，そこで立ち止まってもいいし，何なら今のまま後ろ向きに歩き続けてもいい。それは自由に選択できる (nlog(n): やらなければというプレッシャーから逃れる方法)。

実際に後ろ向きに歩くことで，悩む自分が目に見えるようになる。悩みは解決しないかも知れないが，今の状態が目に見えるようになるのは，何かの助けにはなる。

後ろに歩いて，少し泣いてみる。そうすればまた歩き始められるかも知れない。

追伸: 実際にやるときは，迷惑，事故，怪我に十分注意してください。筆者は責任がとれません。

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