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misc 自閉症自身の取説「スルーできない脳」

ニキリンコ著「スルーできない脳―自閉は情報の便秘です」は自閉症スペクトラムであるニキリンコが書いた,自閉症者に対する,また自閉症者自身への取扱説明書である。

■ ■ ■

この本を読むきっかけとなったのは,サリソルデン著の「片づけられない女たち」である (nlog(n): ADD の概要がつかめる「片づけられない女たち」)。ニキリンコはその翻訳者であり,「自分も ADD だと思って診断を受けたら別の結果が出た」のだという。別の診断結果とは自閉症スペクトラムとのこと (自閉症スペクトラム - Wikipedia)。

この本には,面白いが分かりにくくもある表現が沢山出てくる。「合宿免許体質」(p. 101),「画面分割」「解像度コントロール」「消去ボタン」(pp. 133-134),「ぼた餅脳」「どっこいしょ」 (p. 136),「ひとり無限後出しジャンケン地獄」 (p. 236),「ダイレクトジャンプ」 (p. 329),それから「先着一名様」,「放課後マイクロバス体質」というのもあった。恐らくはニキリンコにはぴったり来る表現なのだろうが,すべてがピンとくるわけではないのが残念だ。独自用語については次の説明がある。

〈モンダイな画面分割〉とか〈全画面表示〉とかいうのは私が講演会場での説明用にでっちあげた造語だけれど,これと同内容のことは,自閉症の専門家たちがずっと前からくり返し語ってきた。ある人は「シングルフォーカス」といい,ある人は「シングルタスク」といい,ある人は「モノトラック」といい,あと何があったかな。ほかにもあるような気がするんだが,とにかく覚えきれない。

こんなにたくさん用語があるのに,わざわざ新しい名前を増やしたのは,日本語の方が覚えて帰ってもらえそうな気がしたからであった。

pp. 136-137 スルーできない脳

確かに外国語のカタカナ表記よりも日本語の方が分かりやすい。しかし,問題は索引がないために,この独自用語がどこで説明されているのか見つけられないことである。索引がつけば,同じことが「合宿免許体質」「合宿教習スタイル」のように気分次第で形を変えながら出てくるという問題も解決されるだろうし,用語の統一も期待できる。

同じようなことが繰り返し書かれているので,飛ばしながら読まないとつらい。しかし,そうすると新しい言葉が説明なしに出てきたりして,そこから戻ってみると飛ばしたところに書いてあったり。

脚注が大量についている。そのページの「脚」には書けないので,節の最後にまとめてあるのだが,何ページにも渡っている。これについては,自身でも余談は短く切り上げなくてはならないことくらい,頭ではよく分かっていると書いていることから,ニキリンコ女史の脳の性質によるものなのだろう。

参考になる部分もある。

二度と出会えない情報の名残惜しさとどうつき合うか

めんどくさくても記録して,なるべく場所をとらない形態で放置(保管)する。本体がどこかよそにあるものなら,そこへのポインタだけでも残す。大切だから捨てないんじゃない。つまらなくするために残す。もだえる時間と体力を倹約するためだ。

p. 217 スルーできない脳

私がやっているのと同じ工夫もあるが考え方が違うのが興味深い。例えば 捨てるものの写真を撮る(p. 309) という工夫があるが,考え方は「これは捨てるかな? すでに写真にとってあるから捨ててもいい」である。私も捨てるものを写真に撮るが,その理由は「捨ててしまったものの形見」のためであって,それは思い出の記憶を取り出す手がかりとするためである。

全体を通して感じるのは,よくもこれだけの文字を書いたなという印象。450ページもある。

結局のところ,この本は,ニキリンコの自分で自分を取り扱うときの取扱説明書なのであった。見ず知らずの他人の取説を読まされて「なんだかなぁ」と思ったが,ここは前向きに考えることにする。「人と違うのは当たり前,自分は他人とかなり違う」というのは私自身もニキリンコも同じ。そう考えれば,私が,この人と同じように自分自身の取扱説明書を書くべきだということなのである。自分だけのライフハック万歳。パンピー (一般ピーポーの意味の死語) のライフハックなどクソ食らえ。

Posted by n at 2010-03-13 01:02 | Edit | Comments (0) | Trackback(0)
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