「ご飯は左,お味噌汁は右」というのに疑問を持たずに生きてきたが,「ご飯は左手前,お味噌汁は左奥」という置き方もありかも知れない。ただしそれは「定食屋で食べる」や「ひとりで食べる」という場合になる。
日本食では,ご飯茶碗は左に置いて,お味噌汁のお椀は右に置くのが普通である。私も親からそう教えられ,どこへ行っても大抵はそうなっている。一般的なマナーでもそうである (食事のマナー「和食・日本料理の食べ方」お膳の位置・席順・お箸の持ち方・魚の食べ方)。
主食のご飯茶碗を手に持ち,箸でおかずを取って食べるというスタイルになるので,茶碗を左側に置くのは合理的だと言える。多くの人は右利きで,右手で箸を持つから,茶碗は左手で持つことになり,そのため置く場所も左側にするのが自然だからである。
定食屋でも左に茶碗,右にお椀で出てくる。ただし,ご飯茶碗のスペースが少なくて窮屈。
ある別の定食屋で,味噌汁のお椀が茶碗の向こう側,つまり左奥に置かれて出てきた。その理由は2つ考えられる。1つはお盆が小さいこと (笑)。味噌汁を右側に置くと,すべての品をお盆に載せきらないのである。もう1つは,主菜の魚を食べやすくするためである。魚は,味はいいが食べるのに手間がかかる。私はこの手間も魚の味の一部だと思っているので一向に構わないのだが,手間がかかることは確かである。その魚に手間をかけるときに,手前にお椀があるというのはかなり邪魔。この点で,お椀が遠くにあるのは合理的である。さらに,お椀は茶碗を持ち替えて左手で持つものなので,左側にあるというのは機能的でもあるのだ。
そこで最初に戻って,一番上の定食屋で出てきた品の並びを変えてみることにする。左手前に茶碗,左奥にお椀,右手前に主菜を置いてみた。主菜の野菜炒めは魚のように食べるのに手間がかかるものではないが,食べやすくなる。ご飯も窮屈そうでなくなった。
どうして伝統的に左にご飯で右に味噌汁というようになっているのかを考える。もしかすると宗教的な理由もあるかも知れないが,ここでは考えない。
まず,ご飯が左というのは,先にも述べたように,ご飯は主食であり,茶碗は持つものであり,箸は右手で持つからである。日本式では,茶碗は常に左手に持ち,箸で主菜や副菜を取りながら食べていくのが普通のスタイルである。お椀に持ち替えるときに置くこともあり,その場合でも左側に置くというのは合理的である。
味噌汁が右になった理由が問題である。庶民の生活としては,古くは囲炉裏を囲むような形が多かったからではないだろうか (古すぎか)。貧しいときは,主菜が味噌汁だけということもあったのかもしれない (貧しすぎか)。どちらも右に味噌汁が来るのは自然である。炉端のときに味噌汁を奥に置いたら落ちてしまうし,貧しいときはご飯と味噌汁の2品しかないのだから当然である。
味噌汁が右になったごく当たり前の理由は,家族での食事では,食卓の中央におかずが置かれてそれを全員が共有する形だからだろう。共有しないご飯と味噌汁は各自の一番近いところに置くことになるので,必然的に味噌汁は右になるのである。
一方,定食屋では,定食はおかずを含めてすべてが1人用として出てきて,他人と共有するものがない。したがって,基本的には何をどこに置いてもいいのだ。家族との習慣をそのままにするのなら味噌汁は右になるだろうし,主菜の食べやすさを重視するのであれば味噌汁を奥に置くことになるのだろう。
この記事を書くのに「お味噌汁」というのをどう書くか悩んだ。味噌が入っていないこともあるので,「お吸い物」にするか,「御御御付{おみおつけ}」がいいかなどである。一般には「汁もの」と言えばいいのだろうが,響きとしてあまり美味しそうに聞こえないので「お味噌汁」にした。「ご飯」のことを「飯{めし}」と言うのには抵抗があるが,「お味噌汁」を一般的風に「味噌汁」と呼ぶのには抵抗がないので,上の文章では「お味噌汁」と「味噌汁」が混じっている。
「ご飯茶碗」の「碗」は石へん,「お味噌汁のお椀」の「椀」は木へん,で材質が出ているのね。漢字って細かいわ。細やかな表現ができていいということね (なぜか女性風)。
2010年3月30日追記:
旧タイトルは「お味噌汁の位置の新解釈」としていたのですが,何も解釈してなかったりするので,変更しました。
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