プラド美術館展に行って来た。フェリペ4世とその娘マルガリータはとてもよく似ていた。
雨が降っている。人通りはまばらだ。しかしそれでも美術館の中に入ると混雑していて驚いた。
上野の東京都美術館では,3月25日(土)〜7月2日(日) プラド美術館展が開催されている。スペインから81点の作品が届いた。
今回すばらしかったのは,フェリペ4世の娘の肖像画である(Margaret of Spain: Information From Answers.com)。
この肖像画が描かれたのは,父親のフェリペ4世の喪中だそうで,黒いドレスは喪服なのだった。この女性は21歳で亡くなったとのこと。上品で悲しみをたたえた表情をしている。
顔はお父さんにそっくり。ベラスケスによる,お父さんのフェリペ4世の肖像画がすぐ前に展示されていた。
この絵ではないが,フェリペ4世の肖像画は 胸甲をつけたフェリペ4世の胸像 で見ることができる。どうやらフェリペ4世一家の顔の特徴は,
そして,唇が厚いというもののようだ。フェリペ4世は,スペイン・ハプスブルグ家の家系の人である(ハプスブルク家 - Wikipedia)。スペイン・ハウスブルク家は,カルロス1世から始まり,フェリペ2世,フェリペ3世,フェリペ4世,カルロス2世がいる(スペイン・ハプスブルグ家)。この家系のどこから「面長・垂れ目・受け口」が発生したのかは不明である。しかし,フェリペ4世とその娘,さらにはフェリペ2世にはその特徴があるのだから,この血の影響はかなり強いことが分かる。
ちなみに,スペイン国王フェリペ3世はポルトガル国王フェリペ2世だそうで,ややこしいこともあるもんだ(プラド日記: スペイン国王の系譜)。「昔の染五郎は今は松本幸四郎で,息子が染五郎」というのとは違うだろうか(違いますかそうですか)。
フェリペ4世の娘マルガリータは,絵画に多く残されている。有名なのは,ピカソもインスパイアされたベラスケス(Diego Velásquez)の「女官たち」である(Las Meninas)。マルガリータの肖像の画面右端には,女たちが喪服を着て描かれている。まるで「女官たち」に出てくる女たちのようにも見える。もしそうなら,女官たちの中心にいるのはマルガリータ本人だから,本人が2人登場していることになる。これは何かのなぞかけだろうか?
ベラスケスの「女官たち」が描かれたのが1656年頃で,マルガリータは8歳。「皇妃マルガリータ・デ・アウストリア」が描かれたのが1666年頃なので,マルガリータは18歳くらいということになる(皇妃マルガリータ・デ・アウストリア)。人気のなさそうな絵にも関わらず,多くの人が見ていた。その人たちをよく見るとイヤホンをしている。音声ガイドの効果だ(音声ガイド:プラド美術館展)。
その他によかったのは,以下の2点。
ボデゴンとは,静物画とか厨房画の意味である。正確にはボデゴンは静物画ではないとのことだが(美術案内 第3回),専門家でないかぎり意味が分からない言葉である。ボデゴンという用語を使ってしまうと,専門家なら100%理解できるが,素人は0%しか理解できない。それよりも「静物」という平易な表現を使うべきだろう。100%の理解はないかもしれないが,0%ということはないからだ。英語訳でも「静物(still life)」となっている (Hunting still-life with birds,vegetables and lemons. - Carrots as depicted in fine art works)。
美しいマリアである。よくある無表情なマリアではなく,希望に満ちた柔らかい表情をしている。髪の毛もフワフワ。画家ムリーリョが愛した人に違いない。残念なのは,この絵は大きくて (206 x 144 cm) しかも上の方に掛かっていたため,顔がよく見えなかったことである。顔が天井のすぐそばで高すぎ遠すぎ。
人影まばらな雨の上野公園。
入場料は大人1500円。後で調べたら割引もあったのね(プラド美術館展)。プラド美術館展のスタッフによるブログがあり,ポッドキャストで解説が視聴できる(プラド日記)。
Posted by n at 2006-06-11 22:22 | Edit | Comments (6) | Trackback(1)
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実は私も開催期間中に行きたいと考えているのですが、その目的というのがまさしくムリーリョのマリアなのです。ちなみに仕事場のデスク横にもその絵が貼ってあったりします。しかし、展示場所が高くて遠いとは…
そうなると、大阪開催での展示場所に期待するしかないですかね。ちょうど片道3500円で行ける、86人乗りの大型夜行バス「青春ドリーム号」にも乗りたいと思っていたので。あの"まん丸の目"をしたマリアを間近で見たい!
Posted by: yanagi at June 14, 2006 09:14よほどのことがない限り,大阪会場でも同じでしょう。高さ 2 m の絵の一番下が床上 1 m という展示の仕方は割りと自然だからです。愛らしい「まん丸の目」を間近で見るには身長が 3 m なければなりません。大阪に行くのはリスクが大きすぎます。
Posted by: n at June 14, 2006 22:54まずは東京会場で見ることをお勧めします。あるいは駅のポスターなら思い切り近くで見られます(これが思いのほか出来がいい)。
お伺いしたいのですが、プラド美術館に展示されてあったフェリペ4世の絵は胸像でしたか?
Posted by: L at July 03, 2006 23:01Lさん,はじめまして。フェリペ4世の絵は胸像でした。
Posted by: n at July 04, 2006 00:19http://www1.odn.ne.jp/~cci32280/ArtPrado.htm
これです。探したらありました。2002年にも来ていたんですね。
ありがとうございます。さらにお伺いしたいのですが、プラド美術館のパンフレット的なものもっているのですが、それに載っているフェリペ4世はベラスケスが晩年(1653-57)に描いたもので、フェリペ4世も年をとっていて、黒っぽい服装をした胸像なのですが、美術館に展示されていたのは、 胸甲をつけたフェリペ4世の胸像(フェリペ4世がまだ若いときの作品)だったのでしょうか。
Posted by: L at July 05, 2006 11:54先に示したリンク先はご覧になりましたでしょうか。
Posted by: n at July 06, 2006 00:31http://www1.odn.ne.jp/~cci32280/ArtPradoVerzquez2.htm
今回来ていた作品はこれです。あとはご自分で判断してください。