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misc 虚数と数学

数学の話。「虚数が分からない」と言う人がいる。しかし,実はそう言っている時点で半分くらい分かっていることになるのだ。

■ ■ ■

「虚数が分からない」と言う人がいる。たけくまさんは次のように言っている(たけくまメモ : 数学が苦手です)。なんだか引用しにくい文章なんだけれども。

問題なのは「虚数」というやつで、高校時代にこの言葉を聞いたとき、ちょうど「45億年に及ぶ地球の歴史に比べて自分はなんてちっぽけなんだ」という実存的な問題に悩んでいたお年頃でしたから、なんかすごくかっこいい数であるかのように思えたわけです。英語だとなんというのかわかりませんが、日本語として格好いいではありませんか。

しかし、これがさっぱりわからない。

しかし,実はそう言っている時点で半分くらい分かっているのである。気がついていないだけである。

負の数と虚数は似ている

借金のことを「負の財産」ということがある。「親の遺産を相続する場合は,負の財産も相続することになる」などというように使われる。しかし,マイナスという考え方を知らなかった時代にはありえない表現でもある。「負の財産」という表現は,「負の数」という数学の概念が一般に受け入れられたことを示している。

負の数が認識できない社会を想像してみよう。そこに借金のある人が2人いるとする。1人は少しだけの借金,もう1人は莫大な借金がある。そこへ借金取りが来て,身包み剥いで行った。2人とも無一文になった。この時点で2人の借金はなくなる。2人からもう何も取るものがないからである。借金もなくなるし,2人の借金の差もなくなるのである。負の数が認識できないからである。楽しい世界なのか,楽しくない世界なのかよく分からんのだけれども。そんな感じで理不尽さ満点。

複素数 - Wikipedia には次の記述がある。複素数とは,虚数と実数を組み合わせた数である。

16世紀にイタリアの数学者カルダノやボンベリによって三次方程式の解の公式が考察され、特に 3 つの異なる実数を解にもつ場合において解の公式を用いると、負の数の平方根をとることが必要になることが分かった。当時は、まだ、負の数でさえあまり認められておらず、回避しようと努力したが、それは不可能なことであった。

これは複素数についての記述であるが,負の数についても述べられているのに注目したい。負の数でさえ,認められるまでは時間がかかったというのだ。新しい概念を受け入れるには,学者でさえ時間がかかるのだ。

さて,負の数と虚数はよく似ている。どちらも数の概念を拡張しているのである。表現も似ている。

負の数 1 を加えると 0 になる数を 1 の負の数と呼び,「-1」と書く
虚数 2乗すると -1 になる数を虚数と呼び,「i」と書く

とてもよく似ている。似ているというより,次の2点についてみれば,まったく同じである。同じ形式になっているのだ。

  • どういう数なのかがはっきりしている
  • 名前がついている

この「名前がついている」というのがとても大切なことなのだ。記事の最初に「虚数が分からないと言っている人は,半分は分かっている」というのは,この意味である。存在を知っている時点で,半分はクリアしたことになるのである。

ここでの「名前」は「概念の名前」のことなので,日常生活では,職種,肩書き,ジャンル,レッテルなどに例えることができる。名前がついているからこそ,その概念について議論することができるようになるのである。世間でも,名前がついたことで認知されるようになったことは沢山ある。コピーライターは名前がついたことで職業として成立するようになったし,ニートという非職業は名前がついたことで認識できるようになった。

数学の場合,その名前が何を指すのかについては,誤解のないように厳密に定義される。この点に関しては,意味に幅のある日常の言葉と違うところである。

虚数が発見されたことで,それまでは「この方程式には解がない。」としか言えなかったものが「解はある。虚数だけど。」に変わった。これは大きな一歩である。それまで見えなかったものが見えるようになったということだからだ。負の数を知ったことで,借金の額が見えるようになったことと同じである。

数の拡張

虚数を含む複素数という体系は,数の拡張になっている。拡張されていく様子を簡単に見てみよう。

自然数
自然数


自然数は 1 から始まり,2, 3,... と続く。指で数える数と同じである。0 から始まる流儀もある (自然数 - Wikipedia)。

実数
実数


実数は,自然数を含む体系である。飛び石のような自然数と違い,連続的である。正と負の両方向に伸びている。自然数から考えると,大幅な拡張が行われている。実数はこの連続した線の上にある1点である。

実数と虚数
実数と虚数


虚数は,実数とは別の方向に数の概念を拡張した。実数と同じ連続性を持ちながら,別の方向に伸びていっている。

複素数
複素数


複素数は,実数と虚数の組み合わせである。全ての組み合わせを合計すると,平面になる。1次元だった数が2次元に拡張された。複素数は,この平面上の1点である。

以上で虚数の説明は終わりだ。

数学はイメージを作って捨てていく学問である

これでも虚数が理解できない人はいるだろう。理解できるようになるには,修行が必要である。例えば,唐突ではあるが,活け花をやりたいとする。華道とはどういうものかを知りたいと願っても,説明だけを聞いて分かるものではない。実際にやってみなければつかむことはできないのと同じである。そこには長い道のりが待っている(多分。華道をやらないので分からない)。数学における修行としては,問題を解くという方法がある。問題を沢山解くことでイメージできるように訓練するのだ。小・中・高では,演習問題を山ほどやらされる。苦痛かもしれないが,無駄ではないのだ。案ずるな中高生。君たちのやらされていることには意味がある。

実は,数学の本質は,そうやって折角できたイメージを壊していくことにある。イメージを作って,その後で捨てる。また別のイメージを作って,さらに捨てていく。そうやって世界を広げて行くのだ。

私が最初に捨てたイメージは,分数に出てきたケーキである。6等分したケーキ。イメージしやすいが,そのイメージを捨てなければ 1/6 という分数を把握することはできない。イメージを捨てられない場合は,かなり苦しい戦いを強いられる。「なぜケーキなんだろうか?」「りんごではいけないのか?」「うちは5人家族だから6等分するのはおかしい」「ちなみに正確に5等分なんてできるのかよ」「イチゴが4個しか乗っていなかったらどうするよ」ケーキの妄想が数学を邪魔する。分数で挫折するのは,イメージを捨て切れないのが原因という場合が多い。

自分でイメージを作って,それを自分で壊しながら進めていくのだから,数学というのはかなり前衛的な学問だといえる。エキサイティングではないか。え? そうでもない? あ,そう。

再び虚数

虚数や複素数をイメージするのは難しい。身近にないからである。しかし,身近なものには使われている。電気回路の設計では,複素数が使われる。複素数なしの計算などは考えられないくらいである。私たちは日常的に電気製品を使っている。虚数をイメージできなくても,虚数の恩恵を受けていることは知っていた方がいい。

Posted by n at 2006-10-18 02:09 | Edit | Comments (9) | Trackback(2)
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知ってる・分かってる・出来る・・・
 オイラがよくいくブログにあったんだけど〜  そこでね 数学の虚数ってのを取り上げてたのね  興味のある人は  http://nlogn.ath.cx/archives/000773.html#comments    オイラは まったくチンプンカンプンなんだけど〜    その人が言うにはね ... Trackbacked from: Let’s enjoy at October 24, 2006 06:27
DS 数学マスターDS
中学一年から三年までの新・学習指導要領完全対応 Trackbacked from: ゲーム攻略サイト at November 13, 2009 16:20
Comments

どうにも 呪文のようにしか・・・

まだ 華道とか 茶道とかの方が・・・

数学とか 理屈とか

モヤモヤしちゃうんですよね・・・

端から コンプレックスなんでしょうね

Posted by: maro助 at October 18, 2006 19:55

よく考えてみると,私も本当は理解しているのではなくて,扱えるだけなのかも知れません。

Posted by: n at October 19, 2006 22:12

トラックバックが どうしたら出来るのか・・・

理解してないうえに 扱えない・・・

ご迷惑おかけしていたら

申し訳ありません

Posted by: maro助 at October 23, 2006 20:59

やってみたんですけど・・・
許可されていないらしいのですが・・・

Posted by: maro助 at October 24, 2006 06:24

maro助 さん
トラックバックは成功しています。エラーが出たのは,恐らくこちらのサーバの反応が遅かったからでしょう。エラーは無視して問題ありません。

Posted by: n at October 24, 2006 23:40

とにかく、虚数なるものを、解りやすく教えてください。x^2=-1 とか i^2=-1 とかわなんとなく解る
ような気もしないでは有りません。
しかし、虚数は所詮辻褄合わせのように思えてなりません。難しい高層ビルの設計や航空機等の設計にも虚数が必要として計算されているのでしょうか?。もしそうなら、何とも恐ろしくてなりません。

Posted by: 菅原 明 at November 05, 2008 00:02

菅原 明 さん
「虚数は所詮辻褄合わせ」というのは,ある意味ではおっしゃる通りです。
しかし,その場限りの辻褄合わせではなく,必要とされるあらゆる場面において矛盾なく辻褄が合うようになっているのです。

難しい高層ビルの設計や航空機等の設計にも使われています。
虚数と実数から構成される複素数は,2次元平面の点と1対1の対応関係があります。
「虚」という言葉がついていますが,実体があるものとの対応がついていますので,恐れる必要はありません。

Posted by: n at November 05, 2008 01:50

現在修論作成真っ只中の院生です。
大変勉強になりました。有難うございました。

数学とは一生分かり合えない関係なんだと思ってた理系の院生でした。
数学って、以外にかわいいトコロもあるんですね。

Posted by: momo at January 22, 2012 12:14

momo さん
少しは気晴らしになったでしょうか。
修論だとすると大詰めの時期ですね。頑張ってください。

Posted by: n at January 24, 2012 01:46
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