岸田今日子さんが亡くなった。映画「砂の女」は素晴らしかった。
岸田今日子さんがお亡くなりになった。岸田今日子さん死去 「砂の女」、ムーミンの声(SANSPO.COM > ニュース速報) によれば,
映画「砂の女」や、アニメ「ムーミン」の声などで知られ、演劇でも活躍した個性派女優の岸田今日子(きしだ・きょうこ)さんが17日午後3時33分、脳腫瘍(しゅよう)による呼吸不全のため東京都内の病院で死去した。76歳。東京都出身。葬儀は近親者のみで行い、後日「お別れの会」を開く。喪主は長女の西条(さいじょう)まゆさん。
とのこと。今週の日曜日2006年12月17日のことである。
岸田今日子と言えば,1964年の映画「砂の女」が印象深い。この映画の監督は勅使河原宏,音楽は武満徹で,私が好きな人物が2人も入っている(nlog(n): 私の好きな人)。というよりも,実はその逆で,この「砂の女」を見たのがきっかけで,好きになってしまったのである。
映画は,安部公房の原作にある不条理さを見事に表現した作品に仕上がっている(脚本も安部公房)。モノクロであるのもいい。もし,カラーで撮れる技術があったとしても,モノクロで撮ったのではないかと思えるほどである。砂の世界は,それ自体がモノトーンであり,砂の重さや動きを表現するのに色はかえって邪魔になるからである。
岸田今日子は,砂に開いた大きな穴の中の一軒屋に住む女を演じている。タイトルの「砂の女」である。どういういきさつで,穴の底に住み続けるのかは分からない。穴の暮らしは決して楽ではないのだ。毎日,雪かきならぬ「砂かき」をしなければ家が埋もれてしまう。水は限られている。食卓の上には傘をさしておかなければならない。砂が降ってくるからである。そんな環境のなかで淡々と生きていく女なのである。
この女が実に艶{なまめ}かしい。普段の生活の中では色気を押し込めているのだが,大胆な行動にも出る。寝るときは裸なのだ。服を着て寝るとかぶれるからだという。そして,その裸の女の体に砂が積もっていく様子が映し出される。美しい裸体と,それに似合わない砂。夏のビーチで女の子の尻に貼りつく砂とは違う種類の砂がそこにはある。暗く,しっとりと体に貼りつく砂なのである。エロスを苦しいと感じさせる作品となっている。
この映画のもうひとつの見所は,主人公の男の心の変化である。砂で囲まれた世界から逃げ出そうと何度も試みるが,その度に失敗する。そして,だんだん砂のことしか考えなくなる。身の回りだけでなく,心の中まで砂で満たされていくのである。男の心は劇中で徐々に変化していき,心の中が咽喉元までいっぱいに砂で満たされたときに1つの結論に達する。そして映画も終わりを迎えることになる。
「砂の女」は,安部公房,勅使河原宏,武満徹という前衛芸術家たちが作り上げた邦画の最高傑作である。
2007年9月24日追記:
勅使河原宏展に行ってきました (nlog(n): 刺激的だった勅使河原宏展)。
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