先月末でインターネット動画配信サイト「impress TV」が休止となった。水曜どうでしょうが全国的な人気となったのは,impress TV で配信するという戦略が成功したからではないだろうか。
「水曜どうでしょう」と言えば,全国展開している北海道ローカル番組である ([水曜どうでしょう official website])。今でこそ全国的に知られるようになってはいるが,2000年頃は「知る人ぞ知る」的番組で,私も知らなかった。「大泉洋」だけは見たことがあったが,「パパパパパフィにゲストで出てきた変な人」としてしか認識していなかった。
「impress TV (インプレスTV)」は先月末で休止したインターネット動画配信サイトである (インプレスTV - Wikipedia)。開設が2000年11月15日,休止が2008年9月30日。impress TV では,2001年秋に放映された「YUKON6DAYS 〜ユーコン川160kmカヌー地獄〜 全7夜」の無料配信を行っていた。水曜どうでしょうの全国展開は,impress TV での無料配信という戦略が成功したからではないかと思うのだ。
「ユーコン川160キロ」という企画は水曜どうでしょうの傑作である。マニアともなれば,他の企画も傑作だと思えるようになるだろうが,普通はそうではない。水曜どうでしょうの企画全般に言えることなのだが,味わいが深すぎて,1口食べただけでは美味しいのか美味しくないのか分からないことが多い。いや,むしろ1口だけ食べると不味い。美味しさなどはさっぱり分からないといったほうがいい。例えば,はじめての人に「東京ウォーカー」や「マレーシア」などを見せたら,2度と水曜どうでしょうを見ようとは思わないだろう。その点から言えば,「ユーコン川160キロ」は「どうでしょう初心者」でも十分に楽しめる作品になっている。impress TV では,その「ユーコン全7夜」をすべて無料で公開したというのが素晴らしかったのだ。水曜どうでしょうでは,「第1話」と言わず「第1夜」と呼ぶ。
「どうでしょう」は「ハプニング待ち」で撮影が行われる。ハプニングが起こったときに,出演陣のリアクションを撮っていくのだ。しかし,「どうでしょう軍団」という出演陣2人とディレクター陣2人からなるメンバ構成はいつも同じなので,パターン化してきてしまいハプニングが起こりにくくなっていく。そのため,多くの企画では,何をやるのか教えないとかだまし討ち等の「無理やりな状況」を作ってハプニングを起こそうとするので,見ているのがつらくなることがある。ところが,ユーコン川では,「どうでしょう軍団」の4人に加え,ツアーの案内をするゲストが2人いる。ゲストのおかげで,いつもの軍団だけよりも,ずっとハプニングが起きやすい,というより自然と起こるのである。ユーコン川では,無理矢理なハプニングに自然なハプニングが重なり,混ぜご飯のようなテイストに仕上がっているのだ。
impress TV が休止となった今でも,「ユーコン川160キロ」は HTB (北海道テレビ) のサイトで見ることができる (HTB on Broadband “南平岸 ユメミル広場” トップページ)。しかし,全7夜のうち,無料で視聴できるのは最初の1夜のみ。すべて見るには945円(税込)かかる。しかも30日間の期限付きである (水曜どうでしょう ユーコン川160キロ)。他の企画についても「第1夜が無料で他が有料」の方針で統一されている。料金体系としては分かりやすい。しかし,戦略としてはうまいとは言えない。上でも述べたように,「水曜どうでしょう」という番組は,面白さが分かりにくいからである。最初の1夜だけでは魅力が伝わらないうちに終わってしまうのだ。もしかすると,「水曜どうでしょうが全国的に認知されたから有料にした」のかも知れない。しかし,そうであるなら第1夜だけを無料にする意味が分からない。無料視聴の回を作っているのは,新規視聴者の開拓を狙っているからだろう。新規開拓ならば,誰もが楽しめる「傑作」を無料で配信すべきなのだ。
私は impress TV のおかげでユーコン川を何度も見ることができた。知り合いに impress TV の URL を教えると,「どうでしょうファン」は伝染病的に増えていった。その番組が直接見られるというのは,どこが面白いかを伝えるよりも簡単で効果的なのである。どうでしょうファンとなってしまうと,DVD を買うようになるので,会社としても最終的には大きな利益につながるはずである。
impress TV 内には強烈な「どうでしょうファン」いや「どうでしょうマニア」がいたことが想像される。それは例えば,「impress TV で配信する水曜どうでしょう」の紹介ビデオを,番組とは別に出演陣に撮らせて配信していたとか,2004年の impress TV 開局4周年の特別企画「ぶっちぎりだぜ!! impressTV」には,どうでしょうのディレクター陣2人を招いてインタビューを行っていたことから窺うことができる。そういった情熱も「水曜どうでしょう」を広める原動力になっていたのではないだろうか。impress TV と HTB との間でどのような契約が交わされていたかは分からないが,「ユーコン川160キロ」を無料配信するという契約は大いに成功したと言えるだろう。
impress TV の告知には,「サイト終了」ではなく「サイト休止」となっているので,望む声が多ければ復活するかも (インプレスTV休止に関するお知らせ)。
この度、2008年9月末日をもちまして弊社の運用するインターネット動画サイト“インプレスTV” の運営を休止させていただくこととなりました。
復活を望む声だけが多くても,ビジネスにならなければダメなのだが…。
さて,話をユーコン川に戻すと,企画のゲストであるツアーガイドの熊谷さんにとっても,どうでしょう軍団との旅はかなりの楽しさだったようである。
帰国後、熊谷さんからメールが届いた。
「これまでホームシックにかかったことはなかったけれど、今回は『水曜どうでしょうシック』にかかってしまいました。あれからみなさんの顔を思い浮かべ、番組のホームページを見たりして、少しでも気分をやわらげています・・・本当に楽しかった」というようなことが書かれてあった。
そして去年は藤村ディレクターと北海道で会ったのだとか (10月31日水曜日、藤村であります。 - 水曜どうでしょうD陣日記アーカイブ)。
「ユーコンのYoshi」こと熊谷芳江さんは Sweet River Enterprises のオーナーでもある。どうでしょうが企画で使ったツアーは,ユーコン川カヌーツアーの「ツアータイプ#1」 (Sweet River Enterprises-Our Trips)。直近の2007年の実績では,このツアーは1600カナダドル(+税)となっている (Sweet River Enterprises - 2007年ツアー日程)。
2009年10月14日追記:
水曜どうでしょうがなぜ面白いのかについて書きました (nlog(n): 水曜どうでしょうはメイキングである)。
Master Archive Index
Total Entry Count: 1957