書類などで「記述は以上で終了,以下は余白」というのを示したいときに,斜線が使われることがある。その向きは右からがいいのか左からがいいのかについて考える。
書類で「以下には記述がない」ということを示す時,手書きの場合は斜線が引かれることが多い。ところで,この斜線は「左上から右下」「右上から左下」のどちらがいいのかという話題がある。
斜線をわざわざ書くのは,つまり「以下には記述がないことを示しておく理由」は,書き手が意図しないことを「あとから追加されるのを防ぐ」ためである。金額を「金壱萬弐阡参百四拾五円也」と書いたり,アラビア数字を「¥12,345.-」のように「¥」と「.-」で挟んで,さらにカンマ「,」で区切ったりするのと同じ理由である。こうなっていると「うっしっし,黙ってゼロを1つ足しちゃおう」をやろうと思ってもできず,「もうっ,悔しぃ〜! ムキーッ!!」となるのである。
空欄を抹消する斜線は「左上から右下」「右上から左下」どちらか / ネットに書かれていないことを綴る では,どちらの例もあることを調べている。理由としては,次のようなことがあるとしている。
斜線の向きには「右上から左下」が多いのは確かだが,これには「右利きが書きやすい」「横書きだから」以外の,もっと重要な理由があるからではないかと思うのだ。
上は,ワープロ書きの処方箋の例である。破線「−−−」と「以下余白」を使って,その下には記述がないことを示している。
手書きのときでも,斜線を使わないこともある。例えば履歴書は,欄としては「日付」と「学歴・職歴」の2つしかなく,少ない。履歴書では,職歴などの最後は「以上」として締めくくるようになっている。
項目の欄が多い場合は,斜線が用いられることが多い。これは,書くのに時間がかからないこと,どの欄も埋めることができ,さらには見た目に分かりやすいことというのが理由だろう。
帳簿では「右上から左下」が用いられる。理由は「そういうルールだから」だが,それよりも「なぜそういうルールとなったのか」を考えた方がよい。
その理由は,帳簿の場合は金額が右側に書かれるようになっていて,金額の追加がないことが重要だからではないかと思うのだ。だから,金額の欄に斜線を入れるのが第1条件で,その線を下に伸ばすのは念押しということになる。
もし,金額のさらに右側に「備考欄」があったとしても,斜線を入れるのは金額の欄からとするのが妥当である。
愛知県健康福祉部健康担当局医薬安全課が作成した麻薬譲受証の記入例 (PDF) では,斜線は「左上から右下」になっている。これは,重要な項目が左側に来ているからであろう。譲受証では「品名」が最重要な項目なので,それの追記がないことを示すのが大切なのである。
図の手書き風フォントには ★Heart To Me★ が公開している「さなフォン麦」を使用した。
左上から右下が「ISO の基準」という説は (正式な書類(公文書等)を作成する時、表に斜線を引く場合、左上から右下に引くの... - Yahoo!知恵袋),禁止サインとの混同があるのではないだろうか。国内の標識の禁止サインが「左上から右下」になっているのは ISO 規格にしたがっているからであるが (日本標識工業会/標識Q&A),ISO が書類の斜線まで規格化しているとは考えにくい。
ISO の禁止サインは左上から右下になっている (No symbol - Wikipedia)。これが何故なのかは見つからなかったが,「N」の斜めの線と方向が同じことから,No, Not の頭文字である「N」に由来している (斜線の引き方について。 点検表や台帳など斜線の引き方に決まりはありますか? 自... - Yahoo!知恵袋) という理由は,いかにもありそうである。
斜線が「左上から右下」か「右上から左下」かは,「重要な項目を潰すことが優先」として考えると,この2つを統一的に扱うことができるのである。つまり,「一般的にどちら」と考えるのは間違いであり,その表で最も「重要視されている項目はどれか」を見極めてどちらかを選択すべきなのである。一般的に,表というのは重要な項目は左か右のどちらかに来るようにできており,中央には来ないものなのである。中央に重要な項目が来るようなものは,欄自体が少ないのだ。
この件について記事にまとめるときに,当初は,「手書き→斜線」「ワープロ書き→以下余白」だと思っていた。しかし,途中で「履歴書→(斜線でなく) 以上」だと気がついたので,欄の区切りが「少ない→以下余白」「多い→斜線」に分類し直している。…というのは内緒にしようと思ったが,ばらしちゃう。
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Posted by n at 2013-02-12 22:22 | Edit | Comments (2) | Trackback(0)
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興味深い考察をありがとうございました。コメントとトラックバックは公開後1年で閉じるようにしているため、本文に追記で紹介させていただきました。
Posted by: ネットに書かれていないことを綴る at February 15, 2013 01:16ネットに書かれていないことを綴る さん
Posted by: n at February 16, 2013 04:13丁寧に取り上げていただきありがとうございました。
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