交通事故に遭い,自分に過失責任がないことが明白なとき,第一にすべきことは相手の任意保険の会社の確認である。
バイクに乗っていた時,軽い交通事故に遭った。幹線道路を走っていたところ信号が黄色になったので減速して停止すると,後ろから乗用車に追突されてバイクが倒れたのである。幸いにして怪我はなかったが,バイクのタンクが凹み車体の右サイドに傷ができた。ちなみに,その愛車は13年前のまさに今日,盗まれてしまっている (nlog(n): ハーレー盗難の思い出)。
ぶつけてきたのは若い青年で,あまりはっきりとものを言わないタイプだった。逃げるそぶりはなかったものの,特に心配してくれる様子もなく「大丈夫ですか」の一言もない。ひとまず渋滞の原因になりたくないので車を脇道に移動させた。110番に電話をかけると,最寄りの交番を教えてくれた。その交番で対応してもらえというのである。
交番では,住所,氏名,電話番号をそれぞれ聞かれ,自賠責保険の確認があった。青年は「信号が黄色に変わったがバイクは止まらないと思った」と言っていて,衝突時はバイクが停止していたことを認めた。警察は,どちらも怪我がないということを確認すると,こちらでできることはここまでということだった。お互い連絡先を交換して,後はお互いの保険会社に任せましょうと言ってから別れた。こちらのバイクには凹みができてしまっていたからである。
それからしばらく待ってみたが,相手からも相手の保険会社からも連絡がない。相手の電話番号にいくらかけてもつながらない。困ったことになった。
こうなったら親に連絡をとるしかない。学生で自分の車に乗っているということは,親が裕福だということが想像できる。そういう家はだいたい電話帳登録をしてあるので連絡がとれるのではないか。
そこで最初にやったのは,相手の住民票の取得である。その青年の住所は隣の市だったので,平日に休暇をとって役所に出向いて手続きを行った。このときほど「住民票の第三者請求」という制度をありがたく思ったことはない。それまでは「赤の他人でも住民票がとれるっておかしくね?」と思っていたが,そうでもなかった。この制度がなければお手上げだったからだ。
住民票には前の住所が記載されている。その住所は島根県だった。NTT の電話番号案内に電話して住所と名前を言うと該当者があった。「ビンゴ!」という声が心の中に響いた。
電話をかけると,最初に年配の女性が出たので事情を話すと困った声を出して男性に替わった。相手の青年の母親から父親に替わったと思われる。青年に電話しても出ないのはどうしてかと聞くと,「電話を止められているんですよ。こっちからも連絡できなくてね。わっはっは」。「わっはっは」だと? 笑い事じゃねぇよ。こちとら車にぶつかられて,休暇もとって,住民票の金も払って,千葉から島根に長距離電話しとるんじゃ。若干の殺意が湧いたが,「この子にしてこの親ありか」という諦めが勝った。「ビンゴ!」と浮かれた気持ちの高揚は,怒りに変わった後,あっという間にしぼんでいった。
自分の方の任意保険会社に聞いてみると,こちらが赤信号で停止している状態でぶつけられた場合,こちらの過失割合はゼロになるのだという。その場合は保険会社は動けないというのだ。このとき,生まれて初めて保険の「約款」なるものを読んでみた。だいたい,これが「やっかん」と読むことさえ知らないくらい馴染みのないものである。灰色の薄い色で,小さい文字で,しかも小難しい文体で書いてあるのだ。「読んでくれるな」というのを自ら表現しているような,いまいましいアレ。約款というのはそのアレのことである。
読んでみると,保険が効くのは確かに自分側に過失がある場合だけのようである。「ちっ,保険会社は自分が金を払いたくないから相手の保険会社と交渉するのかよ!」と当時は思ったが,保険会社が交渉をするのは「非弁行為」といって法律で禁止されているとのこと (非弁行為(ひべんこうい)とは - コトバンク)。保険会社としては,法律でやってはいけないと決められているし,無駄に交渉する必要もないしで,一石二鳥である。
もしかすると相手も自分と同じ保険会社かも知れないと思ったが,これもダメ。八方ふさがりである。しかし,何とかならないかと粘ってみると,「交渉はできないが,相手の保険会社だけなら調べられる」というのだ。それを早く言ってくれ。話によると,保険会社同士で顧客の情報を一部共有しているそうで,契約者の名前から調べられるというのだ。相手の名前で登録がないというので,もしかすると保険に非加入なのか,もうこれでダメかと思ったが,相手の親の名前で調べてもらうと該当があったのである。
自分の保険に「弁護士特約」というのをつけていれば,交渉は弁護士がしてくれるらしいが,そんな特約はつけていないので,相手の保険会社との交渉は自分でやることになった。結局,こちらのバイクの修理代を請求して,その分が支払われたわけだが,その他にかかった電話代や住民票請求必要,多大な労力と時間にかかった迷惑料については支払われることはなかった。
記事に起こすのに思い出していたらだんだん腹が立ってきた。15年も前のことなのに書けば書くほどありありと思い出す。普通は文章にすると昇華するものなのだが…クソったれ!
Master Archive Index
Total Entry Count: 1957