英短文音読トレーニングの方法をブラッシュアップしたので紹介する。手順は単純で,持ち歩きもでき,1つの文を1か月に渡って繰り返し復習できる特徴がある。さらには,勤勉な日,怠惰な日,どんな気分にも対応する超柔軟かつお気楽なトレーニング法でもある。
英短文の暗唱をはじめたのが3年前 (nlog(n): 英短文暗唱トレーニング法 - 私の場合)。最近もトレーニングは続けていて,基本的には同じだが,量が増えたためにやり方が少し変わってきている。この方法がとても効果的なので紹介したい。現時点での決定版である。以前は「暗唱」が主な目的だったが,最近は「音読」に目的がシフトしている。目的は変わっても,音読しているうちに覚えてしまって,最終的には暗唱することになるので,結果は同じである。
音読をしていると,なぜかリスニングの力も向上する (nlog(n): 聞き流すだけでは向上しないリスニングという技術)。不思議な副次効果がある。
英単語の効率的な記憶法として,復習までの期間を徐々に長くしていく方法が紹介されている (オランダ発!記憶に残る画期的な単語学習法 - [TOEIC・英語検定] All About)。最長で1か月後に復習となるというのは効果があるに違いない。しかし,その方法は箱を用意しなければならないので,持ち歩くことができない。しかも,手間がかかるため,英単語を覚える以外のことに脳を使わなければならないという欠点がある。
以下で説明する方法は,手順は単純で,持ち歩きもでき,1つの文を1か月に渡って繰り返し復習できるという特徴を持つ。無理せずに記憶していくという点では,英語完全上達マップの「サイクル法」と同じである (英語上達完全マップ●瞬間英作文)。
教材としては,見開きで対訳になっているものを使う。左のページに英文,右のページに日本語訳が載っているものがよい。鈴木 長十, 伊藤 和夫著「基本英文700選」や (nlog(n): 英語の短文暗唱は最低30回),旺文社の「英検Pass単熟語」の別冊付録が使いやすい (nlog(n): 「英検Pass単熟語準1級」で語彙増強)。「英検Pass単熟語」には5級から1級まであるので,自分の力に合わせて選ぶことができる。もちろん,見開きになっていない教材から,スプレッドシートに書きだして作ってもよい。開始日と終了日を書いておくと,そのシートにどのくらい時間をかけているのかが分かるのでお勧めである。
やり方としては,基本は1文につき80回繰り返すだけだが,ポイントは繰り返し期間を1か月になるように引き伸ばすという点である。長い期間に渡って少しずつ触れるというのは,「オランダ発」の方法と同じで,忘れにくいのだ (nlog(n): 英語の学習は砂を掘る作業に似ている)。
ルールの詳細は以下の通り。
ルールを全部書きだすとややこしや〜な感じがするが,ほとんど脳を使わないで機械的にできる。機械的というのはつまり,音読するというメインの作業に集中できるということである。音読の回数は1周目は2回,2周目は3回,3周目は2回,4周目は3回,というように,2回と3回が交互になるようにする。2回と3回で合計5回になったら,新しいページを付け加えていく。
2回と3回に分けている理由は,5回連続で同じ文を唱えると飽きるからである。1回だと足りない。2回以上が必要だ。私が実際にやっているのは,繰り返し回数2回の周のときは1文につき2回連続で音読する。3回の周のときは2回連続で音読した後,ページの一番上に戻って,仕上げの気持ちで1回ずつ音読し合計3回としている。
軌道に乗るまでを順に説明していこう。まず,1ページ目を2回ずつ音読し,音読した回数分だけチェックしていく。最初だけは,もう一度1ページ目を,今度は3回ずつ音読する。1ページ目はこれで終了。繰り返し回数が5回になったので,2ページ目を新たに束に加える。2ページ目を2回ずつ音読し,1ページ目の後ろに重ねる。1ページ目を2回ずつ音読したら,2ページ目の後ろに重ねる。ここまでで,1ページ目は合計7回,2ページ目は2回,それぞれ繰り返したことになる。次は3回ずつ繰り返す。それが終わった時点で,繰り返し回数は1ページ目は合計10回,2ページ目は5回となる。束の繰り返し回数が5の倍数になったので,新しいページを1ページ加える。同じように繰り返すと,次は,1ページ目は合計15回,2ページ目は10回,3ページ目は5回となる。こうしていって1ページ目が80回になったら,1ページ目は終了となる。
新しいページを追加する場合,重要なのは,発音をしっかり調べることである。発音記号を見て,母音やアクセントの位置をチェックするのを忘れずに。80回も繰り返してしまうので,正しければ正しいまま,間違っていれば間違ったまま記憶に定着する。
上の図は,このトレーニング法について,暗記用のシートを主体として示したものである。縦軸に「ページ」,横軸に「日付」をとっている。横長の細い四角形が1ページの有効期間を示している。日が経つと,「今日」の位置が右にずれていくことになる。水色のページが現在トレーニング中,濃い黄色が今日追加したページ,薄い黄色が明日以降にトレーニングに入るページである。終了分は捨てていく。
上の図は,先に上げた図と同じものを,繰り返し回数を主体として示した図である。この図では,縦軸が「繰り返し回数」となっている。1枚のシートは,右上がりの斜めの線で表されている。こちらの図からは,繰り返し回数がだんだんと増えていって,所定の繰り返し回数に達したら終了するという様子が読み取りやすい。時間をかけて砂を掘っていくという感じもつかみやすい (nlog(n): 英語の学習は砂を掘る作業に似ている)。
さて,このトレーニングに使う教材は,左のページに英文,右のページに日本語訳が載っているものであった。これはすなわち,前半は英文を見ながら英文を音読すればいいだけだが,後半は日本語訳を見ながら英文を音読しなければならないということを意味している。
これは,トレーニングとして「一粒で二度美味しい」的な味わいを持っているということであり,この方法の大きなセールスポイントにもなっている。
上の図は,1枚のシートを対象とした場合に,音読の繰り返し回数を増やしていく中でどのように負荷が変化していくかを示したものである。最初に英文を読み始めるときは,ゆっくりにしか読めず,読むときの負荷も高い。何度も繰り返すと負荷が下がっていき,スラスラになる。ところが,右ページに移った途端,眼に見えるのは日本語訳だけなので,英文を言うのはまた一苦労ということになる。ひっくり返して英文をチラ見したりして思い出さなければならない。しかし,この非常に負荷が高い期間が過ぎると,またスラスラ読めるようになっていく。それは,一旦は,前半で英文がスラスラ読めるようになっているからである。最初から日本語訳を見て「英訳せよ,音読せよ」という課題だとダブルの負荷がかかって続かないが,「最初は英文を見ていいよ,後は和文英訳になるけど何度もやっている文だよ」なら負荷が分散して軽くなるのだ。
大切なことは,前半の英文を見ながら音読する場合には,できるだけ流れるように,つっかえないように,正しく発音できるように,それだけを意識することに集中する。和文英訳のことは後半に任せるので,前半では考えない。後半は,和文英訳になるが,すでに何度も繰り返しているので,「作る」のではなく「思い出す」作業となる。この後半の中では「あれ? 何と言うんだっけな?」となることが必ずある。記憶が曖昧だから当たり前である。しかし,この「あれ?」を大切にして欲しい。何となく漫然と読んでいた部分が明確になるからである。「あれ?」の段階を経ると,記憶がより強固になる。一旦忘れた記憶を手繰り寄せる手がかりを,トレーニングの中で強めていけるからである。
トレーニング中は,集中した方がもちろんいいのだが,意識しすぎないでもよい。80回の繰り返しの中では,「うっかりしてぼんやり3回やっちゃった」などあるものである。しかし,繰り返し回数が多いので,知らず知らずのうちに集中している回数も多くなる。このような軽い気持ちのほうが長続きする。「全体の半分くらいは集中できたかな」くらいでOK。
この方法の特徴としては,1日のノルマが決まっていないことが挙げられる。「今日は沢山できない」という日も当然ある。そんな日は途中で止めてしまってもよい。なぜなら,ある日は途中で終了しても,次の日にレジュームが簡単にできるからである。次の日にトレーニングを開始する時には,1番上になっているページから始めればよく,2回チェックマークが続いていたら,「2回の周」を表しているし,3回チェックマークが続いていたら,続けて「3回の周」として続ければいいからである。
繰り返し回数をチェックする際,5回区切りでペンの色を変えると分かりやすい。私は,4色ボールペンを使っていて,赤,青,緑の順に色を変えている。
上の写真は,チェックの様子。子どもがイタズラ書きをしている。
1つのページの生存期間はどのくらいか,すなわち,1つの文はどのくらいの期間トレーニングとして繰り返されるのかというのも気になる点である。ここでは80回ずつ繰り返すことにしていた。5回区切りでシートを追加し,同じタイミングで捨てていく。したがって,80を5で割った16周が生存期間である。1周 (各5回の繰り返し) を何日で行うのか,上に書いたようにノルマはないが,仮に2日でやるとすると,32日かかることになる。約1か月である。
1周を2日で行う場合,1日目は2回ずつ,2日目は3回ずつというように,負荷が低い日と高い日の強弱をつけてもいいし,1日目2日目とも2.5回ずつというように平均的に行ってもよい。「2.5回ずつ」のやり方は,1日の区切りを日本語訳に入ったページに設定すれば実現できる。そうすると,1日目は半分を2回繰り返し,半分を3回繰り返すことになるので,平均して2.5回の繰り返しとなる。
音読は実に効果的である。音読すればスピーキングの基礎ができる。文単位で覚えれば,単語を用例とともに覚えるのと同じなので,使い方が分かるし,記憶も強固になる。この方法は,単語だけを覚えることよりも,トレーニングとして時間がかかるという欠点があるが,最終的には「使える技術として身につく」ので非常に有効である。「理解できること」よりも「使えること」に重点を置いたトレーニングなのである。
音読は,文法の確認,前置詞の使い方,冠詞のつけ方,様々な言い回し,語彙増強など,様々な学習に効果的で,記憶に定着させるのに有効である。
10代,20代,30代の頃の自分に教えたかったトレーニング法である。40代でも遅くはない (遅いけど)。
2011年4月20追記:
このトレーニング法の見た目と現実の間のギャップについて書きました (nlog(n): 結果はあまりにも簡単そうで過程はあまりにも大変そうに見えるという不思議)。
関連:
このトレーニング法で行った学習は以下のものです。
Master Archive Index
Total Entry Count: 1957